安全・安心なクルーズの実現
~コロナ禍での経験と教訓を踏まえて~

  • その他シンポジウム等
  • 海事・港湾
  • 観光

主催:一般財団法人 運輸総合研究所、 一般財団法人 みなと総合研究財団

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2022/12/21(水)10:00~12:30
会場・開催形式 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
【基調講演】
テーマ:「安全・安心な国際クルーズの再開に向けて」
講 師:河野 真理子  早稲田大学法学学術院 教授

【講演①】
テーマ:「クルーズ事業者における感染防止対策の取り組み~にっぽん丸の現場から」
講 師:川野 惠一郎  商船三井客船株式会社 取締役 
            にっぽん丸ゼネラルマネージャー

【講演②】
テーマ:「安全・安心なクルーズ港の実現のための取組み」
講 師:高橋 哲    横浜市港湾局みなと賑わい振興部客船事業推進課長

【パネルディスカッション及び質疑応答】
コーディネータ:河野 真理子  早稲田大学法学学術院 教授
パネリスト  :川野 惠一郎  商船三井客船株式会社 取締役
                にっぽん丸ゼネラルマネージャー
        高橋 哲    横浜市港湾局みなと賑わい振興部客船事業推進課長
        宮沢 正知   国土交通省海事局外航課長
        西尾 保之   国土交通省港湾局産業港湾課長
        鈴木 清隆   観光庁国際観光部国際観光課新市場開発室長

開催概要

 我が国におけるダイヤモンド・プリンセス号等における経験と教訓を踏まえた安全・安心な国際クルーズの実現のための取組の考え方、関係者の取組や安全・安心の実現の状況、再活性化に向けた課題等についての認識共有を図り、我が国における本格的なクルーズ文化の振興への機運を醸成する。

プログラム

開会挨拶
佐藤善信<br> 運輸総合研究所 理事長

佐藤善信
 運輸総合研究所 理事長


開会挨拶
基調講演
河野真理子<br> 早稲田大学法学学術院 教授

河野真理子
 早稲田大学法学学術院 教授

講演資料

講演①
川野惠一郎<br> 商船三井客船株式会社 取締役<br> にっぽん丸ゼネラルマネージャー

川野惠一郎
 商船三井客船株式会社 取締役
 にっぽん丸ゼネラルマネージャー

講演資料

講演②
高橋哲<br> 横浜市港湾局賑わい振興部客船事業推進課長

高橋哲
 横浜市港湾局賑わい振興部客船事業推進課長

講演資料

パネルディスカッション

コーディネーター:河野真理子 早稲田大学法学学術院 教授
パネリスト   :川野惠一郎 商船三井客船株式会社 取締役
               にっぽん丸ゼネラルマネージャー
         高橋哲   横浜市港湾局賑わい振興部客船事業推進課長
         宮沢正知  国土交通省海事局外航課長
         西尾保之  国土交通省港湾局産業港湾課長
         鈴木清隆  観光庁国際観光部国際観光課新市場開発室長

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閉会挨拶
山縣宣彦<br> 一般財団法人みなと総合研究財団 理事長

山縣宣彦
 一般財団法人みなと総合研究財団 理事長


閉会挨拶

当日の結果

■基調講演 「安全・安心な国際クルーズの本格再開に向けて」 

河野真理子 早稲田大学法学学術院教授

安全・安心な国際クルーズの実現のために何が必要か。国際クルーズについては、COVID-19感染症のパンデミックを受けて、特に日本の場合は、コロナ禍の初期でまだウィルスの特性がわかっていなかった時期にダイヤモンド・プリンセスの問題が発生し、クルーズ自体が怖いという印象を持たれている。他方、世界的には国際クルーズは再開の方向に向かっており、COVID-19への対応に関しても、科学的な知見に基づいて、ガイドライン等の改定を重ね、対策が取られている。
国際法上は、従来、旗国が責任を持って船舶を管理、保護することが原則とされ、これを旗国主義と呼んできた。便宜置籍船が増加した現在、船舶の安全な運航の実現のために寄港国に一定の権限を認める規定を置いた条約が増加している。特に、国際クルーズの場合は、船長、職員、部員の船上で働く人と乗客の国籍が多様であり、船舶所有者、運航に関わる者、寄港先も多様な国にわたるため、非常に多くの国が関わることになる。そのため、クルーズ船の安全な運航の実現を考えるとき、旗国主義を貫くことは難しく、寄港先や関連する人々の国籍国がどのような権限を持つべきかを明確にすることが重要になってくる。
COVID-19により明らかになったことは、全ての人にとって安全・安心なクルーズの運航を確保しなければならないということである。その際、保護されるべき人には、船上の人だけでなく、寄港地の住民も含まれることになる。そして、クルーズ船を運航に関わる全ての者が協力して、感染症への対応に有効な措置をとることが求められている。そのためには、船内での対策にとどまらず、陸と海の関係者の連携が重要な役割を果たす。これらの点に関して、11月15日に国土交通省から国際クルーズの受入れ方針が示されたと同時に、クルーズ船及び港湾施設の運営について3つのガイドラインが出されている。また、ダイアモンド・プリンセス号の経験から外国籍の船舶からの正確な情報提供が寄港国側にとって不可欠であることが認識され、2021年の海上運送法の改正により、外国人等に対して報告徴収義務を課す規定が設けられた。さらに2022年に港湾法が改正され、感染症の発生時に国が港湾施設の管理を代行する制度が創設された。
国際クルーズ船における感染症対策に関しては、①船内への罹患者の立入りの防止、②船内で感染症の発生が確認された際の初期対応、③船内で感染症が蔓延した後の対応の3つのフェイズに区別することが必要である。まず①については、国による実効的なガイドラインの策定と船舶の運航に関わる者によるその遵守、船内の設備を十分にするとともにその運営の実効性の確保、人材(船長、職員、部員、港湾関係者)の教育・訓練、乗客の意識の向上等を確保した上で、乗船者全ての事前の検査を徹底すべきである。また、②について蔓延を防止するための実効的な初期対応が重要な意味を持つ。また、③については、発症者の十分な治療、さらなる感染の拡大の防止に努めるとともに、感染者を乗せた船舶の寄港によって陸に感染症が持ち込まれないために船舶、港及び寄港国が協力して対応する必要がある。そして、これらの対策に関して社会全体への説明を行うことで寄港地の住民が安心してクルーズ船を歓迎できるようにすべきである。
日本にとって国際クルーズの振興は、観光の活性化の観点から不可欠である。そのため、国家の責務として、信頼できる船舶(ships of confidence)、 信頼できる運営(operation of confidence)、信頼できる港湾(ports of confidence)を実現するための実効的かつ実務的なガイドラインの策定と全ての関係者によるその遵守(preparedness)の確保が図られなければならない。また、各国のガイドラインやガイダンスは科学的知見が高まるに従い共通項が見られるようになっており、そうしたハーモナイゼイションやICAO、ILO、IMO、国連等の国際組織間の協力等、国、国際組織、そして民間という全ての関係者の国際協力体制の構築が必要である。
最後に、国際クルーズを再活性化していくためには、ダイヤモンド・プリンセスの経験からの風評被害や懸念を払拭できるように、全ての関係者の協力に加え、その体制や対策について社会に情報提供をして、理解を得ることが不可欠であることを強調したい。

■講演① 「クルーズ事業者における感染防止対策の取り組み~にっぽん丸の現場から」

川野惠一郎 商船三井客船株式会社 取締役 にっぽん丸ゼネラルマネージャー

2020年のコロナ感染拡大によりクルーズの運航停止を余儀されたが、国内クルーズを再開するため、国監修の業界団体の感染防止のガイドラインに準拠したマニュアルを作成し、第三者機関からの認証を受ける必要があった。このため、早急に「感染症予防対策マネジメントマニュアル」を作成し、認証を取得した。その後、トライアルクルーズを実施することができ、これを成功させ、チャータークルーズや一般募集のクルーズも次々と始まった。
クルーズ運航を進めていくための感染防止対策としては、感染防止対策の基本の基である3つの柱、感染者のリスクを減らす、船内での感染リスクを抑える、乗客や乗組員への感染の拡大リスクを抑える、すなわち「もちこまない」、「うつさない」、「ひろげない」のこの3つの柱に沿って、乗船前の事前ウィルス検査等、乗船中の体温計測等、船内でのソーシャルディスタンスの確保、換気対策等様々な感染防止対策を講じている。また、万一、感染者が発生した場合、速やかに隔離措置を行えるよう準備をしている。
2022年12月に待望の国際クルーズも再開したが、引き続き、感染防止対策を万全に整えた安全・安心の上にいつでも変わらないクルーズの楽しさをお伝えし、ポストコロナ時代のクルーズファンが増えることを心から願っている。

■講演② 「安全・安心なクルーズ港の実現のための取組」 

高橋 哲 横浜市みなと賑わい振興部客船事業推進課長

横浜港のクルーズの状況については、9割以上が、発着港として寄港していただいており、空港に近く、長年にわたり多くの客船を受け入れてきた実績、観光地へのアクセスの良さ等により、発着港として選んでいただいていると思っている。また、クルーズは、経済波及効果があり、これを期待して取り組んできており、今後もコロナと向き合いながら取り組みを進めていきたい。 
横浜港として安全・安心な客船の受入に関しては、国監修のガイドラインに基づくとともに、クルーズ船を受け入れるにあたって、地元関係部局が入った協議会により クルーズ船の受入れの合意や想定を超える事態に備えた協議を進めてきた。また、他港や船会社とも調整の上、横浜港における感染症対策のルールを設定し、船会社に求める感染症対策としての受入条件を提示し、感染対策も進めてきた。       
さらに、国際クルーズの再開にあたっては、引き続き、基本的な考え方である3つの柱、感染対策によりもちこまない、うつさない、ひろげないことをしっかり行っていく。今後も横浜港として安心・安全なクルーズ船の受入れ実現していくために取り組んでいく。




■パネルディスカッション
コーディネーター:河野真理子 早稲田大学法学学術院教授
パネリスト:
川野惠一郎 商船三井客船株式会社 取締役 にっぽん丸ゼネラルマネージャー
高橋 哲  横浜市みなとにぎわい振興部客船事業推進課長
西尾 保之 国土交通省港湾局産業港湾課長
宮沢 正知 国土交通省海事局外航課長
鈴木 清隆 観光庁国際観光部国際観光課新市場開発室長

○論点① 安全・安心実現のための取組と評価

【川野様(商船三井客船)】
クルーズを再開し、お客様から、クルーズは、陸上より安全・安心という声をいただいている。これも、ガイドラインの見直しを重ねていき、船内の感染防止対策を最適化していくことにより、お客様に安心感を提供できていると思っている。また、感染防止対策等を万全に期してクルーズを動かしているので市民の皆様に歓迎していただきたい。

【高橋様(横浜市)】
2020年11月に国内クルーズが再開されて、半年後に船内に陽性者が確認されたが、今年の夏まで、クルーズ中の感染者は確認されておらず、船側のしっかりとした対策と受入港側の取組みに一定の効果があったと考えている。また、2022年9月には、横浜港として、ツーリズムEXPOジャパン(国際旅行見本市)に出展し、これまでのクルーズにおける感染対策の取組みを紹介し、安全・安心なクルーズのPRを行った。

【西尾様(国交省港湾局)】
国際クルーズの運航にあたっては、船会社がガイドラインを作成し、これを遵守する必要がある。また、国としては、港で受け入れるための感染症対策の設備、たとえば、陰圧テントやサーモグラフィー等の導入の補助を行っている。また、クルーズ船において集団感染が発生した場合、港湾管理者に代わって、国が港湾施設の管理業務を行えることにしている。

【宮沢様(国交省海事局)】
国内クルーズ再開後の2年間で、様々な経験や知見をクルーズ会社の方々と積み重ねてきた。ガイドラインが第八版となっていることがその証である。これが、国際クルーズの安全・安心の担保に繋がる。
安全・安心の取組としては、船舶の対策、受け入れ地側の体制と、その間を繋ぐ船舶と受け入れ地との連絡調整が重要と考えている。国内クルーズと国際クルーズで違うところもあるが、海上運送法の改正により外国船に情報提供を求めるための法的根拠も整った。

○論点② クルーズの再活性化に向けた課題と取組の方向性
【川野様(商船三井客船)】
クルーズ船に係る感染防止対策について、手を緩めることなく講じ、クルーズは安全・安心という意識を今以上に定着させる持たせることが再活性化に向けての課題である。    
また、クルーズの魅力である船内で楽しむといったイベントの工夫や上陸に伴う寄港地との連携を密にしていく必要がある。

【高橋様(横浜市)】
横浜港においては、クルーズの発着港になることが多いため、横浜観光をしていただけないという悩みがある。そのため、花火、イルミネーションといった夜間イベントや観光施設のリニューアル等、横浜観光していただけるよう工夫を行っている。まだ、受け入れ港として、人材育成も含めてしっかり準備を進めていくことが大事である。

【西尾様(国交省港湾局)】
今後、多くの国際クルーズ船が、日本への寄港を予定している。このため、受け入れる地元の協議会において、船会社としっかりと協議していただくことが重要である。
また、経済波及効果の点からも観光や地元産品を買っていただく取り組みやクルーズ船を誘致するためのプロモーション活動が重要である。クルーズ船社もそういうものを求めている。

【宮沢様(国交省海事局)】
不安感の払拭のため、船舶での対策、寄港地の体制、その間の連絡調整をしっかり行い、乗客や寄港地の住民それぞれに安心感を持ってもらうことが重要である。また、クルーズマーケットの拡大に向け、日本人の新規顧客獲得に向けて船旅の認知度を高めていくことや外国人に日本をクルーズのデスティネーションとして認識してもらうことが重要である。今までは感染対策に追われてきたが、今後は感染対策プラス活性化にギアチェンジして、取組を進めていく必要がある。

【鈴木様(観光庁)】
JNTO(日本政府観光局)と協力し、海外プロモーションやマーケティングを進めていく。
クルーズに関しては、主要な市場であるアメリカにおいて、JNTOロサンゼルス事務所が主にBtoBを意識したイベント出展やクルーズセミナーの開催、ファムトリップ(訪日観光促進のための旅行事業者やメディアの(本邦)現地視察)を行っている。
寄港地では、食事やアクティビティ等の、その場でしか体験できないことの選択肢を増やしていく取組が重要であると考える。

〇質疑応答 

Q (上智大学:兼原教授)
感染症を防止しつつ、経済活動に不必要な影響を与えない、このバランスをとることが国際秩序の大事な目的であるが、そのために日本はどういう発信していくべきか。
また、感染症対策のため船舶の構造、デザイン、装備等の国際的な基準が強化される可能性があるが、日本はどのように、自国の利益を守りつつ、感染症に対して率先した姿勢を示しているのか。
A (宮沢様(国交省海事局)
ガイドラインが第八版になっている通り、クルーズ船の安全・安心の対策を、感染状況や知見を踏まえて見直しを行い、感染拡大防止と経済性のバランスを取りながら進めてきた。
また、日本はサプライチェーンを確保するため、船員の交代を守り抜いた数少ない国であり、これを、IMO等の場でPRしている。

【西尾様(国交省港湾局)】
クルーズ再開が先行した欧米諸国でも最初は厳しい基準を設けて、知見が出てくることにより徐々に緩和をしていき、安全・安心と経済活動のバランスを取りながら進めてきた。今回のガイドラインは比較的厳しい中身になっているので、知見を積みながら徐々に現実的な形へと展開していきたい。

【川野様(商船三井客船)】
ガイドラインの改訂を重ね、安全・安心なクルーズの活動が実現しており、これを消費者の方に理解して頂き、たくさんの方にクルーズに乗船して頂くことが大事である。

Q (境港管理組合)
今回の日本丸モーリシャスの海外寄港地については、陽性者への対応を、船側または陽性者本人の意思等も含めて決定できるのか、それとも寄港国が判断を決定するのか。

【川野様(商船三井客船)】
原則として陽性者は次の寄港地で搬送することになっているが、国際クルーズは寄港先の外国の指示、方針に従うため、報告の上、これを順守する。国により船に対する指示は変わってくる。船側に委ねられている部分は、感染者の症状を確認し、重症化の懸念があれば搬送を要請する。また、無症状のため船内療養で隔離完了となる場合であれば、船内隔離の継続を判断することもある。船長、衛生管理者、船員と本社の対策本部と連携をとり協議を行い判断していく。

○ディスカッションのまとめ
【河野先生】 
クルーズ船の感染対策は、関係者が一生懸命頑張って努力をしている。
その上で、いかに安全・安心なクルーズの運航を実現していくかは観光振興にとって重要であり、また、安全・安心と経済性とのバランスをどのように取っていくことかは重要な論点である。
今後の日本におけるクルーズの振興、地域の観光の活性化のためには、新たな感染症への対策も含めて、関係者の一層のご努力に加え、それをいかに社会に伝え、理解してもらうかの重要性を改めて感じた。

本開催概要は主催者の責任でまとめています。



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