高齢者等の移動手段確保に向けたビジョンを描く
~持続可能で新たな公共交通を目指して~高齢者等の移動手段確保方策検討に関する調査研究 中間報告
- 運輸政策セミナー
- 総合交通、幹線交通、都市交通
日時 | 2022/6/8(水)15:00~17:45 |
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会場・開催形式 | 運輸総合研究所2F:会議室 (及びオンライン開催(Zoomウェビナー)) |
テーマ・ プログラム |
高齢者等の移動手段確保に向けたビジョンを描く ~持続可能で新たな公共交通を目指して~ 高齢者等の移動手段確保方策検討に関する調査研究 中間報告 基調講演 「高齢者等の移動手段確保に向けて-交通事故防止に向けて高齢者がマイカーから転換できるか-」 鎌田 実 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会座長、東京大学名誉教授、 (一財)日本自動車研究所・代表理事研究所長 中間報告 「高齢者等の移動手段確保方策検討委員会における調査研究中間報告」 小泉 誠 (一財)運輸総合研究所主任研究員 講演① 「一般交通と福祉交通の果たしてきた役割とこれからの方向性」 秋山哲男 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員、中央大学研究開発機構教授 講演② 「高齢者の介護予防・生活支援の観点からの示唆」 服部真治 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員、 (一財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 政策推進部 副部長(企画推進担当)研究部 主席研究員 パネルディスカッション・質疑 コーディネーター:鎌田 実 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会座長 パネリスト: 秋山哲男・河崎民子・服部真治・三星昭宏・吉田 樹・若菜千穂 (高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員・五十音順・予定) |
プログラム
開会挨拶 |
宿利正史 |
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基調講演 |
鎌田 実 「高齢者等の移動手段確保に向けて -交通事故防止に向けて高齢者がマイカーから転換できるか-」
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中間報告 |
小泉 誠 「高齢者等の移動手段確保方策に関する研究中間報告」 |
講演① |
秋山哲男 「一般交通と福祉交通の果たしてきた役割とこれからの方向性」 |
講演② |
服部真治 「高齢者等の移動手段確保に向けたビジョンを描く」
高齢者の介護予防・生活支援の観点からの示唆
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パネルディスカッション・質疑応答 |
コーディネーター |
鎌田 実 |
パネリスト |
秋山哲男 |
パネリスト |
河崎民子 |
パネリスト |
服部真治 |
パネリスト |
三星昭宏 |
パネリスト |
吉田 樹 |
パネリスト |
若菜千穂 |
閉会挨拶 |
奥田哲也 |
当日の結果
1.基調講演
テーマ:「高齢者等の移動手段確保に向けて-交通事故防止に向けて高齢者がマイカーから転換できるか-」講 師: 鎌田 実 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会座長、東京大学名誉教授、
(一財)日本自動車研究所・代表理事 研究所長
高齢者ドライバーの事故は、死亡事故に至らないものも数えると相当数発生している。今の公共交通はマイカーの運転をやめようとする人の受け皿にはなっていない。マイカーに依存している状況から脱却できないか。誰も取り残さない社会を目指したモビリティサービスの姿をビジョンとして掲げたい。移動手段のあるべき姿の実現に向けては、誰がコストを負担するのかの議論が必要になる。移動には費用が掛かるということを認識してもらわなければならない。また、ドライバーにはエッシェンシャルワーカーとしての適切な労働環境を確保すべきである。
社会状況として、自動車産業は100年に1度の革命の時期である。この流れを生かしたい。カーボンニュートラルの実現に向けて対応していく必要があるが、今のBEVはコスト面に課題がある。バス・タクシーの輸送人員は長期的に減少傾向であり、新型コロナウイルス感染症が追い打ちをかけている。自動運転やMaaSは実証実験が数多く実施されているが、事業化されるものは限定的である。人口減少が進む地域では、医療・介護や生活支援に係るサービスを提供することが困難になるため、小さな拠点の形成を考える必要がある。高齢者のフレイルを防ぐには、社会参加の維持が最も重要であり、モビリティの必要が改めて指摘されている。
MaaSは上手く活用すれば、免許返納の受け皿になる可能性はある。日本でも定額制乗合サービスが登場し始めている。利便性や料金、事業性、補助の組み合わせなど、様々な視点から可能性を考えるべきである。将来目指す移動手段のあるべき姿について、大きなゴールイメージは賛同いただけると思うが、各論が必要になる。技術は目的を達成するための手段として上手く活用したい。
2.中間報告
テーマ:「高齢者等の移動手段確保方策に関する研究 中間報告」講 師: 小泉 誠 (一財)運輸総合研究所主任研究員
公共交通は、民間サービスとして運営・運行されており、行政の補助で何とか維持しているものの、権限や財源、法制度の条件等から、十分には移動手段を確保しづらい状況にある。地方ではマイカー無しでは生活が成り立たない状況であり、介助等が必要な人が移動する手段も限定的である。その結果、高齢ドライバーによる事故増加や移動困難者が発生しており、今後さらに深刻化すると考えられる。利用する方々を基点として移動手段のあるべき姿を再考し、最適な状態への変革を進める必要がある。本調査研究は、人口が約1億人に減少し更なる高齢化が進行する2050年を見据えて、高齢者等の「移動のあるべき姿」、「移動手段のあるべき姿」とその実現策に向けた提言を行うことを目的としている。
これまでの検討状況につき中間報告を申し上げる。まず、高齢者等の「移動のあるべき姿」とは「個人の属性、居住地域の属性にかかわらず、人には移動の自由が確保され、行使できる」ことと考えている。一方、今のまま進めば、人口減少や高齢化の中で、リソースや財源が不足し、更に移動手段の確保が困難になる。新たな社会状況の変化として、カーボンニュートラルの実現に向けた電動車への転換に伴いコスト増でマイカー所有が難しくなったり、自動運転技術の普及は進むにしても条件付きの運行になる可能性などもある。従来型の交通の事業モデル・仕組みは限界にきており、高齢者等の「移動手段のあるべき姿」を描き、その実現を目指す必要がある。
高齢者等は「自分で移動する手段がない人・移動できない人」と「車以外の移動手段が十分に無いため、自ら運転している人」がいるが、移動する術がない人には、健康に日々の生活が送れるよう地域内及び目的先までの移動を保証するベーシックな移動手段が必要となる。自ら運転している人には、マイカーからサービス利用に転換しても良いと思えるよう、マイカー運転の自由度・利便性に近い移動手段が必要になる。高齢者等の「移動手段のあるべき姿」は「利用者の状態・状況・ニーズに合わせて、運転しなくても生活の質を担保するモビリティサービス」であり、そのように再構築する必要がある。そのことによって、高齢者等は移動手段を選択でき、また、公共交通の利用者が増えることで、サービスとしての持続性を確保できるという状態を目指すべきである。このような新たな公共交通を実現するためには、運行形態・事業形態、サービス・技術、主体・担い手、財源・マネジメントの観点からの検討が必要であると考えている。今後、検討を深めていき、本年度末までに提言としてビジョンや具体的方策を取りまとめる予定である。
3.講演①
テーマ:「一般交通と福祉交通の果たしてきた役割とこれからの方向性」講 師: 秋山哲男 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員、中央大学研究開発機構教授
日本の一般交通は、約100年前からバスやタクシーが出現し、1995年頃からはコミュニティバスやデマンドバスが普及してきた。その後、タクシーやバスのユニバーサルデザイン化が進み、車両も発展してきた。そして、近年は、新たなモビリティシステムが出てきている。福祉交通は、2000年に介護タクシー、2006年に福祉有償運送が始まり、その後、ユニバーサルデザインタクシーが多く用いられ始めた。ただ、現状として福祉ニーズへの対応は十分とは言えない状況にある。
海外の状況を見ると、米国・英国・スウェーデンでは一般交通が福祉交通を補完している状況にある。また、欧州では、2013年にSUMP(Sustainable Urban Mobility Plan:持続可能な都市モビリティ計画)が提示された。この中で、公共交通サービスを確保するために、権限当局が交通事業者に課す運行義務であるPSO(Public Service Obligation:公共サービス義務)をはじめ、権限移譲専門組織、運輸連合などができた。欧州は人に焦点をあてた考え方であるが、日本は交通に焦点をあてており、その差は大きい。
日本の一般交通は、障害者・高齢者への配慮が十分ではないが、今後いかに配慮していけるか。一般交通から福祉交通へのアプローチが必要ではないか。また、欧州では、公共財源かつ公共運営で公共交通が確保されているが、日本の公共交通は民間財源かつ民間運営である。民間で実施している間は、海外と同レベルの移動手段を確保することは難しいのではないか。日本でも財源と制度を真剣に考える時期が来たと考えている。
4.講演②
テーマ:「一般交通と福祉交通の果たしてきた役割とこれからの方向性」講 師: 服部真治 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員、
(一財)医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 政策推進部 副部長(企画推進担当)研究部 主席研究員
日本では平均寿命の延伸に伴い健康寿命も延伸している。しかし、不健康な期間は男性で約8年、女性で約12年ある。厚生労働省では健康寿命の延伸を目指しており、その対策のひとつとして、介護予防・フレイル対策がある。
フレイルは病気ではなく、日常生活の活動量の低下によって進行する。社会とのつながりがなくなると生活範囲が狭くなり、フレイルが進行する。会食・喫茶などの通いの場の参加者と非参加者では健康状態に差が見られ、介護給付費用も通いの場の参加によって抑制されているという研究結果がある。幸福や健康の実現には様々な因子があるが、その中で社会参加は重要であり、社会参加のしやすさは交通など地域の環境による。移動手段確保をどうするかが、今後の大きな問題になる。
松戸市では、2019・2021年度にグリーンスローモビリティを町会・自治会に無償で貸し出す調査を実施した。グリーンスローモビリティを導入し、外出や社会参加機会を増やし、メンタルヘルスの悪化やフレイル発症の抑制などにつなげ、最終的に社会保障費を抑制することを想定している。
名張市では、小学校区ごとに地域づくり組織を15組織設立し、「住民が自ら考え、自ら行う」まちづくりを進めている。その中で、住民主体の生活支援・外出支援などが実施されており、名張市はその経費を介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスBとDで支援している。その結果、名張市では、要介護認定率が国・県より低く、フレイルに該当する部分が低くなっている。また、市内で積極的に住民主体の活動を行っている地域ほど要介護認定率が低い傾向にある。
介護予防・フレイル予防の観点から、移動手段の確保は必要である。特に、松戸市も名張市も交通の観点から考えているわけではなく、住民を基点として、個人の幸せ・健康を中心に考えられている。
5.パネルディスカッション・質疑
コーディネーター:鎌田 実 高齢者等の移動手段確保方策検討委員会座長パネリスト: 秋山哲男・河崎民子・服部真治・三星昭宏・吉田樹・若菜千穂
(高齢者等の移動手段確保方策検討委員会委員・五十音順)
(運営・運行する主体の垣根の解消)
・ある地域では、タクシー事業者、NPO法人、行政がそれぞれ運行していることが課題であったため、一体的な運営に転換しようと取り組んでいる。運行・運営する主体間の垣根が解消されれば、高齢者等の移動の問題は解決しやすくなるのではないか。
・自家用有償旅客運送と許可・登録を要しない運送、バス・タクシーの垣根を取り払う必要がある。市町村が地域の事情や裁量で取り組める制度が必要だと考える。
(交通に関する意識の変革)
・今の若い人はお金に関する価値観が違う。費用が適切なコストに則ったもの、公平・公正であるか等、資本主義の経済から倫理を大事にする経済になっていく。その際、なぜこの値段なのかをストーリー立てて説明することが重要になる。
・今後、BEVの自家用車を維持するためには、相応の費用が必要となる。車を所有するよりサービスを利用する方が経済的にも自分のためにもメリットがあるとなれば、公共交通への移行について合意しやすくなる。こう言った考え方を広げていくことが重要になる。
・公共交通はコミュニティの財産、いわばコモンである。このような観点から公共交通がどうあらねばならないのかということを考える必要がある。
(まちづくりとの連動)
・人口規模が小さい場所では、資源も小規模多機能であることが必要になる。公民館に店舗があり、店員が送迎するようなことや、移動販売車で送迎を行うことなども今後出てくると考えられる。その際に活動をどうマネジメントするかが重要になる。
(高齢者の社会参加の機会との連動)
・高齢者がそれぞれの実情に応じて社会参加をすることがとても重要である。そのための移動をどのように確保するかがポイントになる。
(専門人材の確保)
・地域での移動手段確保に向けては、初期段階でのプロデュースが重要となる。地域の移動手段の状況を確認・判断できる人材が地方部は不足している。
・行政に公共交通の専門的な知見を有する人材が必要であり、専門家を育てることが重要になる。
(行政によるマネジメント力の強化)
・地方部を中心に交通計画の力が弱い。民間事業者が運営費用の9割以上を公的補助によって賄っている場合にも、行政には民間事業者をマネジメントできていない。公共交通が公共ではなくなっている。
(喫緊の課題の解決)
・高齢者のフレイル予防は待ったなしであり、生活に必要となる行為や人との交流のための外出ができず、半年間閉じこもりになれば要介護状態に陥ってしまう。そのため、高齢者が外出に必要な移動手段を確保するにあたり、長期的な取組も行いながら、できるところから実施する短期的な取組も必要である。
●質疑
Q 高齢者のフレイル予防は、コトづくりと交通との関係が重要だと思うがいかがか。
A 豊明市の「チョイソコ」の事例はまさにコトづくりと関係しており、目的地となる店舗等から協賛金を集めるモデルになっている。
Q 高齢者とともに交通弱者である子どもも対象と考えられるがその点いかがか。
A 子どもの移動についてもあわせて考えていきたい。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。