我が国における地域公共交通等の新たな地域経営手法を考える
~ドイツにおける「シュタットベルケ」の分析~

  • 運輸政策セミナー

第84回運輸政策セミナー(オンライン開催及び会場参加)
主催:運輸総合研究所
共催:国土交通省国土交通政策研究所

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2022/7/8(金)13:00~15:00
会場・開催形式 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン開催(Zoomウェビナー))
開催回 第84回
テーマ・
プログラム
講演:「地域における公共的サービスの財政効率的管理運営手法-ドイツのシュタットベルケを参考に-」
 小谷将之  前国土交通省国土交通政策研究所 客員研究官
      (現公益財団法人日本住宅総合センター研究部 主任研究員)

コメント:
 土方まりこ 一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員
 諸富 徹  京都大学大学院 経済学研究科 教授

パネルディスカッション・質疑応答
コーディネータ‐:
 山内弘隆  運輸総合研究所 所長
パネリスト:
 講演者及びコメンテータ

閉会挨拶:
 山田輝希  国土交通省 国土交通政策研究所 副所長

開催概要

 人口減少・高齢化社会における厳しい財政環境において、地域住民の生活の質(QOL)を支える包摂的な(inclusive)公共・公益的サービスを維持するために、地球環境と事業性の両面を踏まえた持続可能な仕組みが必要である。このためには、地域の利用可能な資源をできる限り包括的に活用する仕組みが考えられ、実際に欧州、特にドイツの各地域では、地域公共交通を含む複数の公共・公益的なサービスを提供する、市町村等出資の企業体である「シュタットベルケ」※が、エネルギー分野等収益性の高い事業と、単体では赤字に陥りやすい公共交通事業など多様な公共・公益的サービスの包括的な管理・運営を行い、公益的サービスの維持と地球環境面での持続可能な地域づくりに貢献している。

※一般に、自治体を主な出資者とし、私法上の会社として設立される公営事業体で、電気・ガス・熱供給・水道・公共交通等様々な公共的サービスを包括的に提供する例が多数有り。

 本セミナーでは、国土交通省国土交通政策研究所における調査研究を踏まえて、シュタットベルケの特徴、日独制度比較等を基に、地域公共交通等の地域の公共・公益的サービスの持続性を高める新たな地域経営手法の導入に向けた議論を行う。

プログラム

開会挨拶
宿利正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利正史
 運輸総合研究所 会長

講演
小谷将之<br> 前国土交通省国土交通政策研究所 客員研究官<br>(現公益財団法人日本住宅総合センター研究部 主任研究員)

小谷将之
 前国土交通省国土交通政策研究所 客員研究官
(現公益財団法人日本住宅総合センター研究部 主任研究員)


「地域における公共的サービスの財政効率的管理運営手法
-ドイツのシュタットベルケを参考に-」

講演資料

コメント①
土方まりこ<br> 一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

土方まりこ
 一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員


「シュタットベルケが地域公共交通を担う意義と根拠」
コメント資料
コメント②
諸富 徹<br> 京都大学大学院 経済学研究科 教授

諸富 徹
 京都大学大学院 経済学研究科 教授

コメント資料

パネルディスカッション・質疑応答

<コーディネーター>
 山内弘隆  運輸総合研究所 所長

   

<コメンテーター>
 小谷 将之 前国土交通省国土交通政策研究所 客員研究官
       (現公益財団法人日本住宅総合センター研究部 主任研究員)
 土方まりこ 一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員
 諸富 徹  京都大学大学院 経済学研究科 教授
閉会挨拶
山田輝希<br> 国土交通省 国土交通政策研究所 副所長

山田輝希
 国土交通省 国土交通政策研究所 副所長

当日の結果

1.講演

テーマ:「地域における公共的サービスの財政効率的管理運営手法 ~ドイツのシュタットベルケを参考に~」
講 師: 小谷 将之  公益財団法人日本住宅総合センター研究部 主任研究員


 シュタットベルケは自治体規模の単位で管理されるインフラ・公共サービスを総合的に運営する公共事業体である。明確な定義・法的根拠はないが、ドイツ国内では強いブランドイメージがある。自治体が100%に近いかたちで出資して会社を設立し、公共事業を集約して総合運営し、様々な事業で相乗効果を挙げることで、適切な価格で市民サービスを提供できるほか、エネルギーを主とする事業からの利益を、利益の出にくい事業(公共交通やプールなど)に内部補填する仕組みをとる。
 シュタットベルケの強みは、①民間企業なので収益性・事業拡大の誘因を内在していること。②出資に基づき自治体が関与しているため公益性を担保していること。③運営の執行と監督が明確に分離されているため、経営者は迅速な意思決定を実現できること。④経営の専門家を外部から導入することで経営効率の向上に貢献していること。⑤顧客は地域住民となるため地域密着のサービスや地域貢献活動などを展開しやすく地域経済への波及が大きいこと。⑥制度的な情報開示により高い信頼性が保たれていることが挙げられる。

 シュタットベルケの仕組みを日本に導入する場合には次の課題がある。
 ・競争産業で獲得した収益で不採算事業の損失を補填するという構造がとりにくいため、包括管理による効果があることの検証が重要である。
 ・日本の税制度は、子会社間の利益と損失を相殺して節税することに対する制約が大きい。日本においては100%親子関係を作出しなければならない。「(国税による)域外流出」の防止の観点から、別の方法を検討する必要がある。
 ・日本の会社における指名委員会設置会社等の取扱いを精査し、判例等を踏まえてドイツ流の「経営の監督に特化した機関」の設置可否の検証が重要である。
 ・日本導入時は情報開示を義務付けられるような仕組み(法改正・ガイドライン策定)が必要。

 これらの課題を踏まえた上で、以下の事項が導入へのポイントとなる。
 ・自治体から一定の独立性を保ち、機動的な運営・専門家確保を実現すること。
 ・複数インフラの包括的管理により事業の効率性を向上すること。
 ・収益を他の事業に振り分ける仕組みを構築すること(資金の域内循環)。
 ・中長期のまちづくりに関与させること。
 ・自治体の関与を通じて安全かつ安定的な公益サービスを確実に守ること。
 ・時機に応じた資金の活用、地元発注を通じた価値観元を実現すること。




2.コメント①

テーマ:「シュタットベルケが地域公共交通を担う意義と根拠」
講 師: 土方まりこ  一般財団法人交通経済研究所 主任研究員


 シュタットベルケは、いかなる根拠に基づいて公共サービス事業に従事しているのか。その答は、各地のシュタットベルケ自身が説明しているように、市町村に代わって「生存配慮」の任務を果たすという使命に見出すことができる。
 生存配慮とは、国法学者のフォルストホフが1938年に提唱した概念である。都市化の進行に伴い、必要な生活財は自給自足ではなく、配当されることで入手が可能とされなければならなくなった。フォルストホフは、そうした必要性を充足するための行為を生存配慮と呼び、広義の国家、すなわち自治体を含む行政主体にその責任を課した。また、水道・ガス・電気などに並び、あらゆる種類の交通機関の供給も生存配慮の任務に含まれるとの見解を示した。
 生存配慮の概念はナチス体制下で生成されたが、西ドイツの基本法が生存配慮と共通する側面をもつ「社会国家」を憲法原理に掲げたことから、戦後においても、生存配慮の任務は広義の国家に帰すべきものと理解された。そうした前提の下、電力・ガス・上下水道をはじめとする基本的な公共サービスについては、国民にとって最も身近な行政主体である市町村がその事務を実施する義務を負うべきことが、各州によって規定されている。もっとも、市町村自身が公共サービスの提供に直接従事しなければならないというわけではなく、基本法で保障されている自治行政権に基づいて、これを外部に委託することも可能となっている。そのため、多くの市町村が公共サービスの提供をシュタットベルケに委託してきた。
 なお、今日のドイツにおいて、地域公共交通と生存配慮の概念は不可分な関係にある。それは、1993年に制定された地域化法において、地域公共交通サービスの十分な提供の保証は生存配慮の任務に属するとの旨が明記されたことによっている。
 すなわち、鉄道改革の一環として、近距離鉄道に対する管轄責任が連邦から各州へと移管された1996年以降、地域公共交通全般の計画、運営、および資金調達は各州が担っている。しかし、こうした措置の実施に対する補償という位置づけにおいて、地域公共交通の運営や整備に充当可能な財源が、連邦から各州へと継続的に供給されてきた。2022年は全16州合計で94億ユーロが支給される予定となっているが、莫大な金額を拠出する根拠となっているのは、地域化法に明記された生存配慮の任務である。そして、連邦がこのような地域公共交通政策を実施してきたことにより、シュタットベルケに地域公共交通の運行を委託している市町村にも、その維持や確保を重視する根拠が強化されることになったと考えられる。




3.コメント②

講 師: 諸富 徹   京都大学大学院 経済学研究科 教授

 ドイツのシュタットベルケと同様の組織を日本の自治体が日本の会社法に基づいて創設した場合に、シュタットベルケと同様の機能を発揮できるかについて制度比較を通じて検証された。結果としてはその税制度の違い、会社法のガバナンス上の違い、情報開示制度の違い、この3点の違いがあり、日本の制度やガバナンスのあり方を含めて改革が必要となることが明らかにされた。
 シュタットベルケが人口減少時代のまちづくりに欠かせない制度的インフラ・プラットフォームである意義として、①地域経済循環 ②公共交通をはじめとする、まちづくり財源の捻出 ③地域における官民共同事業のプラットフォーム ④公益事業の専門人材の確保・育成、専門技術の地域への蓄積がある。
 フライブルク市では市がホールディングスの役割をもち各事業会社がぶら下がっている。エネルギー会社の黒字で他の赤字会社の損失を内部補助で補填し、全体で利益を確保している構図である。しかし現状の日本版シュタットベルケとなる地方公営企業が同様のことを行うことは困難であると言える。地方公営企業法の法適用事業は、総務省通知により、附帯事業として実施できないとされている。地方公営事業は個別事業ごとに運営され、持株会社方式をとらない(内部補助を行わない)とされ、事業収益は当該事業にのみ再投資される。また、地方公営企業は市役所本体からの独立性が低い組織体である。
 将来の日本版シュタットベルケの可能性は、地方公営企業の延長線上ではなく、外に切り出された、まちづくりのプラットフォーム企業として存在することである。これにより、専門職員の採用が可能になるとともに、市役所本体の制約がないことが強みとなる。例えば将来総合地域インフラ企業として役所から切り離し、日本版シュタットベルケに統合していく。これによりインフラ事業のマネジメントを総合的に行い、ノウハウを蓄積し、料金徴収や市民の口座管理等の顧客対応を一元化することで経営の効率化を図るとともに、人材の専門性を高めることができるメリットがある。またエネルギー事業等で得られた利益で公共交通を支える財源とすることにより、安い運賃で利用できて、地域経済に好循環が生まれ、雇用、税収も増える。そのベースとなるものが日本版シュタットベルケである。




4.パネルディスカッション・質疑応答

山内 弘隆  運輸総合研究所 所長をコーディネーター、講演者・コメンテータをパネリストとし、ディスカッションを実施した。

主なやり取りは以下のとおり。

≪地域経営が直面する課題に対し、シュタットベルケはどのように位置づけられるか≫
・シュタットベルケに関心を持つ自治体は、人口減少あるいは高齢化が進んでいるような地域が中心になると思う。
・いかに都市をコンパクト、効率化して経営していくか、という中で、シュタットベルケは自分たちのサービスの供給範囲をある程度事業性の観点から位置づけることができる役割を持っている。
・適正な都市の規模に落ち着けていくための一つの機能としてのシュタットベルケというのはあり得る。

≪シュタットベルケは第2自治体のような位置づけか≫
・ドイツの人口2万人程度の小規模な自治体にとっては、シュタットベルケは第2市役所のような立場をとっており、公共交通にしても維持してほしいという市の意向は反映されやすくなり、シュタットベルケもそこに応じていくという形がとられている。
・一方でフランクフルト等の大都市では、行政とシュタットベルケ間で収益性の観点でのせめぎ合いもあり、民間のインフラ会社という位置づけになってくると思う。

≪ドイツにおける地域課題に対する公共サービスの基本的考え方の影響≫
・ドイツでは、公共交通のような不採算部門の赤字をエネルギー事業の黒字によって相殺するといった内部補助について、市民一人一人の考え方はむろん相違するとは思われるものの、総じて全てが効率的であるべきとは考えられていない。
・EUからは、内部補助について、エネルギー事業で独占を取った上で得られた収益をいわば非効率事業の補助に充てており、競争を歪めていると批判されている。
・かつて、エネルギー事業をシュタットベルケで公的に行うのは好ましくないと、民営化が行われたが、収益重視型となりサービス水準が低下した。その後、再度公営化してほしいという非常に大きな運動が2010年代に起きて再公営化された。
・こういった運動からも、シュタットベルケは自分たちの会社だと意識を持っていると思われる。得た収益が自分たちに還元されているという意識もあるし、近い会社だからこそ自分たちにサービスがいいという認識を持っていることのあらわれと思う。


○質疑

Q:シュタットベルケの弱み・問題点は何か。
A:
・シュタットベルケが倒産した例が1社だけあったが、エネルギー以外の公益サービスに手を広げすぎてしまったのが原因だった。さらに、シュタットベルケは人口密度が低い地域では競争に勝ちきれず選ばれない。
・公的な色合いが強いので、それに甘んじると非効率に陥るし、その意味では企業的視点が重要。日本で導入する場合も、公と民のバランスのよいところを取り入れるべき。

Q:シュタットベルケにおいては、フリーライドやモラルハザード等の内部補助の問題をどのようにとらえているのか。
A:
・シュタットベルケ総体として補助できるようにしなければならないので、経益率を利かせることができている。公共交通は低廉な料金で利用できることが重要なので、赤字をなるべく少なくして、エネルギー事業の支援により市民に利益が還元されるようにしている。
・ドイツにおいても、公共交通事業と電力事業は、各地で一体的に運営されてきた歴史があるが、電力事業の国営化とその後の地域分割・民営化を経験したわが国とは異なり、両事業とも今日まで一貫して自治体が運営してきたというケースは珍しくない。そうした経緯もあり、内部補助を問題視するという発想はドイツでは希薄である。

Q:シュタットベルケの日本への導入を議論する前に、シュタットベルケを成立させる理念、財源の背景に着目すべきではないか。
A:
・生存配慮が自治体を義務付けている。財源については、例えば公共交通事業で路線を延伸する場合に、全額投資コストをシュタットベルケの内部資金で賄っているのか、あるいは連邦補助金がある上で自己資金で賄っているのかについて調査が必要。

以下、セミナー中に回答できなかった質疑

Q:「公」と「民」のバランスは難しく、日本では、第三セクターで破綻した団体が多いので、市民も加えた「第四セクター」が良いと思うが如何か。
A:
・第三セクターは過去に相次いで破綻した事例から日本ではあまりよい印象を持っていない市民が多いことに鑑みると、例えば会社の立ち上げ段階では市民を巻き込んだ議論(特にどのような事業を公益事業会社が担うかなど)を行うことは有効。一方で、そうした過去の破綻の原因の一つが官民の責任の曖昧さであったことが指摘されており、多様な動機をもつ多様な主体を日々の意思決定に関与させることで却って経営効率の悪化を引き起こす可能性も否定できない。どこまで意思決定に関与させるかについては、例えば定款等により責任範囲を明示するなどの対応が肝要。
・ドイツのシュタットベルケは、個別の事業や経営についての高い専門性を備えた人材に支えられており、それによって市民からの信頼も得ているものと理解している。そうした意味では、運営に関わる人材の適性を重視することが鍵となると考える。
・奈良県生駒市では、市民セクターが加わる形で地域新電力を立ち上げている。第3セクターよりも望ましいパフォーマンスを示せるか、注目したいと思う。

Q:EUは2000年台前半、競争原理導入の観点からドイツのトラム・バスなど近距離公共交通の運営手法(シュタットベルケによる内部補填)について、「見せかけの民営化」と批判し、是正を求めるEU指令を出したことがあり、これに対し、ドイツの自治体側は不本意ながらも一種の自己防衛策として、公共交通の運営主体を手続き的に民間企業にも開放するために10年間の運営を競争入札にかけるなど透明性向上に注力した経緯がある。これによって、フランスの民間企業ヴェオリアなど民間企業がその後、ドイツの近距離公共交通に参入する動きも見られたが、近年はEUや専門家、そうした「見せかけの民営化」批判は薄まり、地域インフラ企業としてよい意味での内部補填を可能にするシュタットベルケは、地域のサステナビリティ―向上の意味からも再評価されているのか。
A:
・地域インフラの運営・管理を大手の民間企業ではなく自治体が担うという志向(再公有化)は高まっており、その模範事例としてシュタットベルケが注目されているとする文献もある。ご指摘の通り、地域のサステナビリティ向上の意味から再評価されているかもしれないと思う。多様な事業を包括的に行い、損益通算を通じて企業としては存続しつつ利益を地域に還元する仕組み(それも企業として利益を上げるために戦略的に実施される地域還元)は、多くの地域にとって参考になるものと考える。
・2000年代以降、大手電力会社とのコンセッション契約が期限切れとなることを契機として、配電網を買い戻し、自治体が主体となって持続可能な電力供給を行うために、シュタットベルケが既存していなかった自治体によるその新設が相次いだという現実の動きに鑑みても、地域公共交通事業に限らず、公営・民営の別などではなく、サステナビリティの確保が重視されてきたことがうかがわれる。
・欧州委員会の競争政策上の原則に依然として変更はないが、民営化後に起きた諸問題を理解して、形式的に民営化しさえずれば理論の想定通りに良い結果が得られる、というわけではないことを欧州委員会も学習したのではないか。



以上



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