「地域づくりの新たな潮流」~100年後の地域を創る観光の在り方を考える
- 運輸政策セミナー
- 観光
第80回運輸政策セミナー(オンライン開催)
日時 | 2022/4/25(月)15:30~17:30 |
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開催回 | 第80回 |
テーマ・ プログラム |
「地域づくりの新たな潮流」~100年後の地域を創る観光の在り方を考える |
講師 | 取組紹介1: 「思考停止状態の日本をどうよみがえらせるか?」(富山県 東岩瀬地区) 講 師:桝田 隆一郎 桝田酒造店代表取締役 取組紹介2: 「山形庄内をモデルに、未来にときめく社会を創る」(山形県 庄内地区) 講 師:山中 大介 ヤマガタデザイン株式会社代表取締役 取組紹介3: 「「地方×ラグジュアリー×体験型」の可能性」(長野県 南木曽町等) 講 師:岡部 統行 株式会社Zen Resorts 代表取締役 鼎談・質疑応答:枡田 隆一郎 枡田酒造店代表取締役 (順不同) 山中 大介 ヤマガタデザイン株式会社代表取締役 岡部 統行 株式会社Zen Resorts 代表取締役 進 行:三重野 真代 東京大学公共政策大学院特任准教授 |
開催概要
日本では、人口減少により地域社会の存続すら危ぶまれる状況が現実化しつつある。地域の魅力を向上させ、交流、観光を活用して地域の持続、活性化を図る、住んでよし訪れてよしの地域づくりの取り組みは極めて重要である。コロナ禍はこのような状況を加速している。2022年はコロナ禍からの脱却を目指す年となるが、大打撃を受けた観光も、単にコロナ禍の前の状況に戻すのではなく、より高付加価値で地域の持続的発展に貢献する、質の高い観光を目指していく必要がある。
そのような中、地域における強い思いのある個人によるセンスが光る取り組みが、地域を変え、新たな地域の魅力を創出する事例が見られるようになってきている。
今回のセミナーでは、そのような取り組みの当事者がどのような思いでどのように地域づくりを進めているのかを語っていただき、ポストコロナにおける、質の高い、真に地域の持続的な発展・活性化に貢献する「100年後の地域を創る」観光のあり方についてヒントと展望を得た。
今回のセミナーは行政、地方自治体のみならず、大学等の研究機関、交通事業者、コンサルタントなど427名の参加者があり盛会なセミナーとなった。
プログラム
開会挨拶 |
宿利正史 開会挨拶 |
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取組紹介① |
桝田隆一郎 テーマ:「思考停止状態の日本をどうよみがえらせるか?」(富山県東岩瀬地区) |
取組紹介② |
山中大介 テーマ:「山形庄内をモデルに、未来にときめく社会を創る」(山形県庄内地区) |
取組紹介③ |
岡部統行 テーマ:「「地方×ラグジュアリー×体験型」の可能性」(長野県南木曽町等) |
鼎談・質疑応答 |
進行:三重野真代 |
閉会挨拶 |
柏木隆久 開会挨拶 |
当日の結果
1.取り組み紹介
テーマ:「思考停止状態の日本をどうよみがえらせるか?」(富山県 東岩瀬地区)講 師:桝田隆一郎 桝田酒造店 代表取締役
先日台湾の方から、『20年前の日本の製品は高品質高価格だったが、5年~10年前から高品質低価格に変わってきた。それが最近では日本のものは低品質低価格に変わったと気づいた。』と言われた。ヨーロッパの大使の方々には、『30年前に日本に来た際はイノベーションがたくさんあり本国に報告する事項が多くあったが、今日本に来ても報告することがほとんどない。』と言われた。それだけ30年で日本は変わってしまった。
日本人は、東京を世界有数のコスモポリタンだと思っているが、東京に住む外国人の国外への転居に拍車がかかっていることに気づいていない。そんな状況でも日本はさらに鎖国し外を見ないような雰囲気であることに、大使達は皆疑問符を浮かべている。
すべては、思考停止で自分の立ち位置を見ないからだと感じる。日本は素晴らしいという話題だけを好んでニュースや本にしてもてはやし、他のアジアの国がヨーロッパ・アメリカで称賛されているということを取り上げない。自分達は優れているということばかり求める民族になってしまっている。様々な場所で講義をする中で、日本人は能力的には優れているのに、自分で考えないという癖がついていることを実感する。それが一番の問題だと考えている。
ドン ペリニヨンの醸造責任者を28年務めたリシャール・ジョフロワ氏は、シャンパンを世界中のトップのお客さまを相手にプレゼンして回った中で、日本人は特殊な感性を持っていると感じると同時に、感性豊かなのに豊かな生活を送っていないことを疑問に思った。羽田と成田という日本のゲートウェイで、世界の人々が日本のお土産を買って帰りたいのに、海外のブランドばかりで日本のものが売っていない。だったら日本のものをブラッシュアップしブランドにしようということで、彼と白岩酒造を立ち上げた。 日本は山・川・海など豊かな自然を持つ島国である。季節の多様性もありこれだけ素晴らしい国はないが、日本人はそれを活かせていないと感じている。だが、それに気づけば日本はこれから無限の可能性がある。特に地方と農業を中心とした中山間地がパラダイスになることができれば、日本は世界に向けて羽ばたけると痛感している。
テーマ:「山形庄内をモデルに、未来にときめく社会を創る」(山形県 庄内地区)
講 師:山中大介 ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役
ヤマガタデザインはデザイン事務所ではなく、まちづくりをする会社。地域の課題を解決する事業をデザインし未来を創ることがまちづくりだと考えている。子どもたちがワクワクする社会を作ることがミッション。
地方の課題は基本的に全国どこも一緒。行政システムは人口が増えていく前提に作られているが、人口減少と少子高齢化、若年層の流出と経済の縮小が進み、行政機能への依存の限界がきている。このような状況の中、民間主導で地域課題を解決していきたいと考え、山形県の庄内で様々な事業に取り組んでいる。
当社は庄内に住むことを入社の条件にしている。それは都市部にいてお金やアイデアを出すのではなく、地方のまちづくりを最後までやりきる圧倒的な当事者であるため。
現在、どの地方都市でも課題であり可能性のある観光・教育・人材・農業の4つのカテゴリーで、8つの事業に取り組んでいる。
<観光>
地方は美しいということをテーマに田んぼの上に『スイデンテラス』というホテルを作った。当初は銀行や調査会社から反対されたが、単月売り上げ1億円を超えることができた。これからの社会づくりにおいては、マーケティングではなくブランディングやコンセプト優位を突き抜けて取り組むことが大事だと考え、田んぼのコンセプトを活かした空間作りやソフト作りを意識して取り組んでいる。
<教育>
なんでも作っていい状況で何かをつくるということをできることが今の時代に重要だと考え、『キッズドームソライ』という巨大なアートとものづくりの空間、児童館を作った。1,000の素材と200の道具を準備している。その空間を活用し日本で一番面白い学童保育をつくるということをテーマに学童保育にも取り組んでいる。
また日本は不登校の率がどんどん増えている。そういった子どもたちの学びの選択肢を増やすためフリースクール、働く母親の所得向上のためのオンラインITスクールにも取り組んでいる。
<人材>
仕事と生活の充実を両立させたい全国のUIターン潜在層、特に都市部の若者を地方に移住させるため、『ショウナイズカン』という就職転職サイトを立ち上げ、庄内の会社の求人情報と都市部の若者をマッチングさせる仕組みを作った。現在70社の企業、1,000人の求職者が登録されている。これは他の地域でも活用できるので、他地域のまちづくり企業にプラットフォームを貸与している。
<農業>
農業を事業として成り立たせるためには、成長産業である有機農業に取り組み販売単価を上げるしかない。日本は有機農業の耕地面積での割合を2050年までに25%という目標を掲げているが、現在0.2%とかなり厳しい状況である。当社は有機農業のマーケット拡大・獲得のため、生産、学校の運営、ロボットの開発に取り組んでいる。
<まとめ>
日本の地方創生を成功させるためには、各地域均等に行うのではなく可能性のある地域にリソースを集中して社会実験的に取り組み、課題を解決する事業を作るということが必要である。これからの時代は経済成長と同時に人間性・環境性のバランスをとりながら成長していく社会でありたい。そのような事業に取り組んでいく。
テーマ:「「地方×ラグジュアリー×体験型」の可能性」(長野県 南木曽町等)
講 師:岡部統行 株式会社 Zen Resorts 代表取締役
<株式会社 Zen Resortsについて>
株式会社 Zen Resortsは、日本の眠れる資源である自然、伝統、文化、その歴史に基づく暮らしの価値を再発見し、高付加価値化した観光コンテンツとして再構築することで、100年後の日本を作る会社である。
事業内容は、施設の開発(ホテル/レストラン)、飲食メニュー開発など多岐にわたるが、地域を体験するコンテンツの開発を主軸としており、海外市場へPRなども行うことで地方再生を進めている。
<3つのEX>
今、日本にとって必要なものは、3つのEX(Expensive,Export,Experience)であり、以下のように考えている。
・Expensive 日本の産業は世界的に見ても安価であり、高付加価値化ができるのにやっていない。今後日本が生き残るためには高付加価値化が必須である。
・Export 日本は今までかつてない人口減少、少子高齢化に直面している。インバウンドを含め、海外に向けて売り出していくことが必要である。
・Experience 深い体験をしてもらい、共感してもらい地方のファンになってもらうことが必要である。
<南木曾町の体験型ラグジュアリーリゾート>
3つのEXをテーマとした第一弾プロジェクトとしては、2019年に長野県南木曽町という人口約3,900人という消滅可能性都市で、一泊1人15万円以上する体験型ラグジュアリーリゾートの建設を実施した。南木曽町には、京都や東京のような都市型の観光ではなく古き良き日本が残されており、ホテルで提供する家具や料理、自然体験など、地元の人やモノで作り上げることで地域を深く知ってもらっている。さらには高付加価値化して提供することで、京都や東京との差別化ができ、インバウンドの集客に成功し観光を通じて地方を再生することにつながった。
<今後の展開>
今後の展開としては、2030年までに20か所を作ることを目標としており、Zen Resortsは中部地方に新しいゴールデンルートを作ろうとしている。
また、ホテルを通して地域のものが売れるといった地方再生が起きている。こうした地方再生を加速できないかといったプロジェクトも検討している。
2.鼎談・主な質疑応答
東京大学公共政策大学院 三重野真代特任准教授をモデレータとして、鼎談を行った。主なやり取りは以下のとおり。
<鼎談>
・日本酒は20年、30年前からほとんど値段が変わっていない。ラグジュアリー型体験施設の話を聞き日本酒の付加価値化が進んでいないということを改めて実感した。
・農業の観点では、お米の価値が下がり続けている。日本では安いことがいいという文化があり、その中では技術の進展は目覚ましいものがある。今後は、アッパーとなるものからボトムアップしていくことが必要。
・日本は資源大国である。今後、自然の木や水を使った農作物がプレミアム化し、世界的な食糧戦争では武器となっていくだろう。もっとブランド化していく必要がある。
・観光業を入り口として地方再生ビジネスを行ったが、途中で農業や飲食など、もっと大きな範囲を扱う必要がある。地方再生はすべてがつながっている。
<質疑>
Q:地方の外から地方でのビジネスに参入する上で苦労した点は。
A:正しいこと、楽しいと思うことを選んで仕事を行っている。正しいことを行うには部分的ではなく、同時多発的に行わなければならず、日本全体で正しい方向に向かわなければならないため苦労する。
A:「思考停止している」という事実に気が付くことが必要である。日本人はクリエイティブさを持っているので、思考停止していることに気が付くことができれば発揮することができる。
日本人は誰かが作ったプラットフォームで発展するのが得意であるが、プラットフォームを作ることが苦手なわけではない。投資家が既存の形式にとらわれ、新たな発想が生まれてもそこから進まないという現状がある。プラットフォームを作ってもよい、作らなければならないことに気が付くことが必要である。
Q:地域の依怙贔屓が重要とあったが、どのような地域であれば皆さんのような強い思いのある人が活躍し、再生していけるか。
A:地域の「人」により地域が活性化するかが決まる。ビジョンを掲げるだけでなく、それをやりきる「人」を目利きできるかが重要である。
Q:富裕層誘致をすると、富裕層しか呼ばないのかと指摘が入ると思う。どのように対処をしたか。
A:高付加価値化=高単価ととらわれすぎている。高付加価値化の良いところは、自分たちの価値・誇れるものを見出すことができるということを再認識する必要がある。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。