研究報告会 2021年夏(第49回)
- 研究報告会
(会場・オンライン併用開催)
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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日時 | 2021/6/2(水)13:00~17:30 |
会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー3F |
開催回 | 第49回 |
講師 | 開会挨拶:宿利 正史 運輸総合研究所会長 来賓挨拶:藤井 直樹 国土交通省国土交通審議官 活動報告:「アセアン・インド地域事務所の開設について」 奥田 哲也 運輸総合研究所専務理事 ワシントン国際問題研究所長 アセアン・インド地域事務所長 基調講演:「我が国の交通運輸システムは国際社会にどう貢献できるのか」 加藤 浩徳 東京大学大学院工学系研究科教授/研究アドバイザー 報告概要:山内 弘隆 運輸総合研究所所長 報 告(各35分) (1)「ASEAN諸国における土地制度の現状と都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響」 武藤 雅威 主任研究員 コメンテーター 日比野直彦 政策研究大学院大学教授 (2)「空港利用料が機材選択と環境に与える影響」 田邉 勝巳 慶応義塾大学商学部教授/客員研究員 コメンテーター 藤村 修一 全日本空輸株式会社常勤顧問、客員研究員 (3)「定期乗車券の保有が鉄道乗車行動に与える影響と今後の定額制運賃のあり方に関する研究」 小林 渉 研究員 コメンテーター 藤垣 洋平 東京大学先端科学技術研究センター特任助教 (4)「新型コロナウイルス感染症が出張需要に及ぼす影響と出張の価値に関する研究」 安達 弘展 研究員 コメンテーター 金子雄一郎 日本大学理工学部土木工学科教授 (5)「リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響に関する研究」 安部 遼祐 研究員 コメンテーター 谷口 守 筑波大学大学院システム情報系社会工学域教授 閉会挨拶:佐藤 善信 運輸総合研究所理事長 |
開催概要
今回からプログラムを刷新し、まず当研究所の研究アドバイザーをお願いしている加藤浩徳東京大学大学院工学系研究科教授より研究者の立場から基調講演を頂きました。また、研究員からのそれぞれの発表にコメンテーターを設け、報告の概要と意義についての解説や報告者への質問を行うことにより議論の深度化を図ることといたしました。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 開会挨拶 |
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来賓挨拶 |
藤井 直樹 来賓挨拶 |
活動報告 |
奥田 哲也 講演資料『アセアン・インド地域事務所の開設について』 |
基調講演 |
加藤 浩徳 講演資料『我が国の交通運輸システムは国際社会にどう貢献できるのか』 |
報告概要 |
山内 弘隆 報告概要 |
報告およびコメント |
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報 告(1) |
武藤 雅威 講演資料『ASEAN諸国における土地制度の現状と都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響』 |
コメント(1) |
日比野直彦 コメント資料『武藤主任研究員へのコメント』 |
報 告(2) |
田邉 勝巳 講演資料『空港利用料が機材選択と環境に与える影響』 |
コメント(2) |
藤村 修一 コメント資料『田邉客員研究員へのコメント』 |
報 告(3) |
小林 渉 講演資料『定期乗車券の保有が鉄道乗車行動に与える影響と今後の定額制運賃のあり方に関する研究』 |
コメント(3) |
藤垣 洋平 コメント資料『小林研究員へのコメント』 |
報 告(4) |
安達 弘展 講演資料『新型コロナウイルス感染症が出張需要に及ぼす影響と出張の価値に関する研究』 |
コメント(4) |
金子雄一郎 コメント資料『安達研究員へのコメント』 |
報 告(5) |
安部 遼祐 講演資料『リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響に関する研究』 |
コメント(5) |
谷口 守 コメント資料『安部研究員へのコメント』 |
閉会挨拶 |
佐藤 善信 閉会挨拶 |
当日の結果
当日の発表概要は以下の通りです。
【活動報告】
「アセアン・インド地域事務所の開設について」
奥田 哲也 運輸総合研究所専務理事、ワシントン国際問題研究所長、アセアン・インド地域事務所長
4月1日にタイ王国バンコクにアセアン・インド地域事務所(ASEAN-India Regional Office 。略称「AIRO」)に開設した。AIRO及びワシントン国際問題研究所(JITTI USA)が一体となって、東南・南アジア、日本及び北米を俯瞰した広域的かつ戦略的な視点に立脚し、政府・企業関係者や研究者等と連携しつつ、東南・南アジア諸国のニーズを踏まえた国際的な研究調査・情報発信など、国際的な貢献・連携を充実・強化していくこととしたい。
【基調講演】
「我が国の交通運輸システムは国際社会にどう貢献できるのか」
加藤 浩徳 東京大学大学院工学系研究科教授/研究アドバイザー
我が国は、長年にわたるインフラ投資と不断のサービス改善の努力の結果、高度な交通運輸システムを構築してきたが、近年のインフラシステム海外展開では、ライバル国との競争等で本邦企業は相当苦労している。今回の特別講演では、我が国の交通運輸分野の国際競争力向上と国際社会への貢献の意義について講演頂いた。
【主張1】知識で勝負する 「インフラ整備のブランド化」
新興国と競争する際、単なるインフラの整備だけでは日本のインフラシステムをライバル国のものと差別化することができない。日本のこれまで蓄積してきた知識を最大限活用して、高価値のインフラ整備を行うことが必要である。そのためには、インフラについてもブランド化を通じた付加価値化が求められる。また、我が国の知識の国際的普及のためには、留学生を通じた教育が有益である可能性がある。
【主張2】真っ当な商売をする 「同じ儲けるなら世界を幸せに」
海外インフラシステム展開において、短期の利益追求も重要であるが、中長期的には「真っ当な商売」を目指すべきである。持続可能なインフラシステムの海外展開には、「三方(世間、売り手、買い手)よし」の考え方が参考になる。
【主張3】エビデンスを見せる 「日本の知見を世界の常識に」
戦後の各種インフラ整備が日本の経済発展に大きな影響(インパクト)を及ぼしたことは、国内ではたとえ自明であるように見えても、海外では必ずしも自明ではない。海外のインフラ整備においても、EBPM(Evidence-based Policy Making)の考え方が有用であり、日本の経験の科学的エビデンス(証拠)を整備することが必要である。また、我が国で得た知見を海外に対して英文で積極的に情報発信することが重要である。
【報 告】
(1)「ASEAN諸国における土地制度の現状と都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響」
武藤 雅威 主任研究員
コメンテーター 日比野直彦 政策研究大学院大学教授
〈報 告〉
バンコクやジャカルタなどのASEAN諸国の大都市圏では都市鉄道整備が進捗しつつあるが、施設建設段階での財源確保が課題となっている。その確保に向けて、固定資産税の徴収をはじめ、受益者負担金、容積率緩和などの開発利益還元策を講じるには、税制面を含めた土地制度や都市計画が整備されている必要がある。各国の大都市におけるそれらの現状について述べるとともに、還元策展開の可能性を考察した。また、都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響について、文献レビューと分析結果から考察した。
〈コメント〉
各国の土地制度の特徴が整理されており、日本が支援する際の有益な情報である。持続可能な整備、運営、その支援が重要である。各国、違いはあるものの「今後の整備に共通に必要となる視点、日本からの支援策は何か?」、また、「日本のノウハウをどのようにアレンジすべきか?」といった質問がなされた。
〈回 答〉
共通の視点として、都市鉄道マスタープランの着実な実行と都市計画、住宅政策との整合性を図ること、そのプランニング段階からの支援を一例にあげる。また、日本のノウハウの浸透には時間がかかるものの、現地にマッチした「鉄道整備と沿線開発」のための法令整備が必要と考える。
(2)「空港利用料が機材選択と環境に与える影響」
田邉 勝巳 慶応義塾大学商学部教授/客員研究員
コメンテーター 藤村 修一 全日本空輸株式会社常勤顧問、客員研究員
〈報 告〉
空港は国内外の航空路を繋ぐ結節点であり、旅客と物流の両面において、極めて重要な交通インフラである。一方、二酸化炭素の排出や大気汚染物質、騒音や遅延といった外部不経済を生じる。騒音に対しては様々な対策が取られ、全体的には改善傾向にある。昨今の世界的なトレンドとして、環境に配慮した空港使用料の導入がある。本研究は空港における騒音課金の経済学的な意味を整理し、導入の結果、航空会社の機材選択に与えた影響について簡便な検証を行った。分析の結果、空港や導入時期によって、騒音課金の効果に違いがある可能性が示唆された。
〈コメント〉
航空会社のプランニング・プロセスにおいて機材を選択する機会は、機材計画(Fleet Planning)と機材投入計画(Fleet Assignment)の二つがある。Fleet Planningは20年以上に及ぶ超長期のプロセスであり、それが空港使用料の多寡よって影響を受けることはない。Fleet Assignmentは1年以内の短期のプロセスであるが、主要なマーケットでいかに多くの需要を獲得するかに主眼が置かれ多少のコストの差はさほど重要ではない。したがって、空港使用料が機材選択に与える影響は極めて限定的である。
〈回 答〉
大手航空会社の混雑空港における国際線では、費用に占める着陸料の比率が低く、機材選択に与える影響は余り大きくない可能性がある。一方、海外の航空会社やLCC、短距離路線であれば、着陸料は空港の参入撤退に一定の影響を与え、その意味で機材選択に与える可能性がある。
(3)「定期乗車券の保有が鉄道乗車行動に与える影響と今後の定額制運賃のあり方に関する研究」
小林 渉 研究員
コメンテーター 藤垣 洋平 東京大学先端科学技術研究センター特任助教
〈報 告〉
近年の働き方改革や,コロナ禍によるリモートワークの加速により,出社を伴わない働き方が定着しつつあり,企業は通勤手当制度を定期乗車券から実費精算へと見直し始めている.本研究では,今後の定期券制度のあり方について議論することを念頭に,定期券制度と通勤手当制度の歴史的経緯とその実態,鉄道利用者の乗車行動に定期券保有の有無が与える影響について検証した.分析の結果,定期券の保有が利用者の行動範囲を定期経路上に留める可能性を示した.
〈コメント〉
藤垣様からは以下2点の情報整理と問題提起があった.
・MaaS先進事例にみられる定額運賃制度の方向性として,対象とするサービスの拡大や料金体系の多様化が挙げられ,料金体系には,完全定額制,ポイント制,アドオン型等がある.
・公共交通利用の通勤手当制度の場合,個人と交通事業者との契約に法人の関与があり,中長期的には料金形態の多様化による各法人側の制度への対応が必要.
(4)「新型コロナウイルス感染症が出張需要に及ぼす影響と出張の価値に関する研究」
安達 弘展 研究員
コメンテーター 金子雄一郎 日本大学理工学部土木工学科教授
〈報 告〉
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、移動自粛や働き方の変容が進み、企業の出張が減少した。本報告は、新型コロナの拡大が出張行動に与えた影響について、企業ヒアリングを基に考察した。コロナ過は、企業は社員の安全を第一に出張判断を下す傾向があり、新型コロナの影響は業種・職種によって異なる可能性がある。コロナ後は、一定量の出張回復が見込めるが、WEBでの出張代替等を踏まえるとコロナ前までの回復は難しい。
〈コメント〉
本研究は、出張の構造を整理した上で、企業の出張戦略、現況、今後の需要をインタビューで把握した時宜を得た研究である。質問は、研究の方向性と成果の活用、業務逸失コストの指標化について伺いたい。
〈回 答〉
1つ目は、新型コロナにより変化した出張構造・意思決定プロセスを解明し、「有意義な出張を行う上で見落としていること」を見つけ、改善の提言を行いたい。2つ目は、営業情報の入手回数等での指標化が考えられる。
(5)「リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響に関する研究」
安部 遼祐 研究員
コメンテーター 谷口 守 筑波大学大学院システム情報系社会工学域教授
〈報 告〉
コロナ禍で進展したリモートワーク(在宅勤務など)は、個人・世帯の日々の交通行動のみならず、住まい方にも変化をもたらす可能性がある。一方、リモートワークが住まいの郊外や圏域周辺・地方への移転を促すかについては、十分に明らかになっていない問題である。本報告では、最新の調査の結果に基づき、リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響を示し、今後の都市・地域交通に関する示唆をまとめる。
〈コメント〉
内容は一定の完成度に達しており、ここでは広めの議論をしたい。まず、転居者以外の人も含めた「リモート」の影響は何か。また、サイバースペースやオンライン化が進展する中で、都市サービスの配置(目的地)が現状から変わるのではないか。最後に、良好な都市構造実現のために実際に必要な政策は何か。
〈回 答〉
リモートワークは、個人レベルでは居住地選択に加え、地域による働き方の違いや勤務地選択などとも関連する。また、在宅勤務、WEB会議、ネット購入は継続すると考えられ、移動(の一部)は確かに減る可能性がある。今後の政策は、リモート化の進展やモビリティの高度化などの要素をうまく組み込む必要がある。
【活動報告】
「アセアン・インド地域事務所の開設について」
奥田 哲也 運輸総合研究所専務理事、ワシントン国際問題研究所長、アセアン・インド地域事務所長
4月1日にタイ王国バンコクにアセアン・インド地域事務所(ASEAN-India Regional Office 。略称「AIRO」)に開設した。AIRO及びワシントン国際問題研究所(JITTI USA)が一体となって、東南・南アジア、日本及び北米を俯瞰した広域的かつ戦略的な視点に立脚し、政府・企業関係者や研究者等と連携しつつ、東南・南アジア諸国のニーズを踏まえた国際的な研究調査・情報発信など、国際的な貢献・連携を充実・強化していくこととしたい。
【基調講演】
「我が国の交通運輸システムは国際社会にどう貢献できるのか」
加藤 浩徳 東京大学大学院工学系研究科教授/研究アドバイザー
我が国は、長年にわたるインフラ投資と不断のサービス改善の努力の結果、高度な交通運輸システムを構築してきたが、近年のインフラシステム海外展開では、ライバル国との競争等で本邦企業は相当苦労している。今回の特別講演では、我が国の交通運輸分野の国際競争力向上と国際社会への貢献の意義について講演頂いた。
【主張1】知識で勝負する 「インフラ整備のブランド化」
新興国と競争する際、単なるインフラの整備だけでは日本のインフラシステムをライバル国のものと差別化することができない。日本のこれまで蓄積してきた知識を最大限活用して、高価値のインフラ整備を行うことが必要である。そのためには、インフラについてもブランド化を通じた付加価値化が求められる。また、我が国の知識の国際的普及のためには、留学生を通じた教育が有益である可能性がある。
【主張2】真っ当な商売をする 「同じ儲けるなら世界を幸せに」
海外インフラシステム展開において、短期の利益追求も重要であるが、中長期的には「真っ当な商売」を目指すべきである。持続可能なインフラシステムの海外展開には、「三方(世間、売り手、買い手)よし」の考え方が参考になる。
【主張3】エビデンスを見せる 「日本の知見を世界の常識に」
戦後の各種インフラ整備が日本の経済発展に大きな影響(インパクト)を及ぼしたことは、国内ではたとえ自明であるように見えても、海外では必ずしも自明ではない。海外のインフラ整備においても、EBPM(Evidence-based Policy Making)の考え方が有用であり、日本の経験の科学的エビデンス(証拠)を整備することが必要である。また、我が国で得た知見を海外に対して英文で積極的に情報発信することが重要である。
【報 告】
(1)「ASEAN諸国における土地制度の現状と都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響」
武藤 雅威 主任研究員
コメンテーター 日比野直彦 政策研究大学院大学教授
〈報 告〉
バンコクやジャカルタなどのASEAN諸国の大都市圏では都市鉄道整備が進捗しつつあるが、施設建設段階での財源確保が課題となっている。その確保に向けて、固定資産税の徴収をはじめ、受益者負担金、容積率緩和などの開発利益還元策を講じるには、税制面を含めた土地制度や都市計画が整備されている必要がある。各国の大都市におけるそれらの現状について述べるとともに、還元策展開の可能性を考察した。また、都市鉄道整備が沿線の地価に及ぼす影響について、文献レビューと分析結果から考察した。
〈コメント〉
各国の土地制度の特徴が整理されており、日本が支援する際の有益な情報である。持続可能な整備、運営、その支援が重要である。各国、違いはあるものの「今後の整備に共通に必要となる視点、日本からの支援策は何か?」、また、「日本のノウハウをどのようにアレンジすべきか?」といった質問がなされた。
〈回 答〉
共通の視点として、都市鉄道マスタープランの着実な実行と都市計画、住宅政策との整合性を図ること、そのプランニング段階からの支援を一例にあげる。また、日本のノウハウの浸透には時間がかかるものの、現地にマッチした「鉄道整備と沿線開発」のための法令整備が必要と考える。
(2)「空港利用料が機材選択と環境に与える影響」
田邉 勝巳 慶応義塾大学商学部教授/客員研究員
コメンテーター 藤村 修一 全日本空輸株式会社常勤顧問、客員研究員
〈報 告〉
空港は国内外の航空路を繋ぐ結節点であり、旅客と物流の両面において、極めて重要な交通インフラである。一方、二酸化炭素の排出や大気汚染物質、騒音や遅延といった外部不経済を生じる。騒音に対しては様々な対策が取られ、全体的には改善傾向にある。昨今の世界的なトレンドとして、環境に配慮した空港使用料の導入がある。本研究は空港における騒音課金の経済学的な意味を整理し、導入の結果、航空会社の機材選択に与えた影響について簡便な検証を行った。分析の結果、空港や導入時期によって、騒音課金の効果に違いがある可能性が示唆された。
〈コメント〉
航空会社のプランニング・プロセスにおいて機材を選択する機会は、機材計画(Fleet Planning)と機材投入計画(Fleet Assignment)の二つがある。Fleet Planningは20年以上に及ぶ超長期のプロセスであり、それが空港使用料の多寡よって影響を受けることはない。Fleet Assignmentは1年以内の短期のプロセスであるが、主要なマーケットでいかに多くの需要を獲得するかに主眼が置かれ多少のコストの差はさほど重要ではない。したがって、空港使用料が機材選択に与える影響は極めて限定的である。
〈回 答〉
大手航空会社の混雑空港における国際線では、費用に占める着陸料の比率が低く、機材選択に与える影響は余り大きくない可能性がある。一方、海外の航空会社やLCC、短距離路線であれば、着陸料は空港の参入撤退に一定の影響を与え、その意味で機材選択に与える可能性がある。
(3)「定期乗車券の保有が鉄道乗車行動に与える影響と今後の定額制運賃のあり方に関する研究」
小林 渉 研究員
コメンテーター 藤垣 洋平 東京大学先端科学技術研究センター特任助教
〈報 告〉
近年の働き方改革や,コロナ禍によるリモートワークの加速により,出社を伴わない働き方が定着しつつあり,企業は通勤手当制度を定期乗車券から実費精算へと見直し始めている.本研究では,今後の定期券制度のあり方について議論することを念頭に,定期券制度と通勤手当制度の歴史的経緯とその実態,鉄道利用者の乗車行動に定期券保有の有無が与える影響について検証した.分析の結果,定期券の保有が利用者の行動範囲を定期経路上に留める可能性を示した.
〈コメント〉
藤垣様からは以下2点の情報整理と問題提起があった.
・MaaS先進事例にみられる定額運賃制度の方向性として,対象とするサービスの拡大や料金体系の多様化が挙げられ,料金体系には,完全定額制,ポイント制,アドオン型等がある.
・公共交通利用の通勤手当制度の場合,個人と交通事業者との契約に法人の関与があり,中長期的には料金形態の多様化による各法人側の制度への対応が必要.
(4)「新型コロナウイルス感染症が出張需要に及ぼす影響と出張の価値に関する研究」
安達 弘展 研究員
コメンテーター 金子雄一郎 日本大学理工学部土木工学科教授
〈報 告〉
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、移動自粛や働き方の変容が進み、企業の出張が減少した。本報告は、新型コロナの拡大が出張行動に与えた影響について、企業ヒアリングを基に考察した。コロナ過は、企業は社員の安全を第一に出張判断を下す傾向があり、新型コロナの影響は業種・職種によって異なる可能性がある。コロナ後は、一定量の出張回復が見込めるが、WEBでの出張代替等を踏まえるとコロナ前までの回復は難しい。
〈コメント〉
本研究は、出張の構造を整理した上で、企業の出張戦略、現況、今後の需要をインタビューで把握した時宜を得た研究である。質問は、研究の方向性と成果の活用、業務逸失コストの指標化について伺いたい。
〈回 答〉
1つ目は、新型コロナにより変化した出張構造・意思決定プロセスを解明し、「有意義な出張を行う上で見落としていること」を見つけ、改善の提言を行いたい。2つ目は、営業情報の入手回数等での指標化が考えられる。
(5)「リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響に関する研究」
安部 遼祐 研究員
コメンテーター 谷口 守 筑波大学大学院システム情報系社会工学域教授
〈報 告〉
コロナ禍で進展したリモートワーク(在宅勤務など)は、個人・世帯の日々の交通行動のみならず、住まい方にも変化をもたらす可能性がある。一方、リモートワークが住まいの郊外や圏域周辺・地方への移転を促すかについては、十分に明らかになっていない問題である。本報告では、最新の調査の結果に基づき、リモートワークが交通行動と居住地選択に与える影響を示し、今後の都市・地域交通に関する示唆をまとめる。
〈コメント〉
内容は一定の完成度に達しており、ここでは広めの議論をしたい。まず、転居者以外の人も含めた「リモート」の影響は何か。また、サイバースペースやオンライン化が進展する中で、都市サービスの配置(目的地)が現状から変わるのではないか。最後に、良好な都市構造実現のために実際に必要な政策は何か。
〈回 答〉
リモートワークは、個人レベルでは居住地選択に加え、地域による働き方の違いや勤務地選択などとも関連する。また、在宅勤務、WEB会議、ネット購入は継続すると考えられ、移動(の一部)は確かに減る可能性がある。今後の政策は、リモート化の進展やモビリティの高度化などの要素をうまく組み込む必要がある。