第2回TTPUセミナー「持続可能な新しいモビリティの実現方策について」
- 総合交通、幹線交通、都市交通
- 新技術・イノベーション
(会場・オンライン併用開催)
主催 | 【主催】 東京大学公共政策大学院 【共催】 一般財団法人運輸総合研究所 一般財団法人日本みち研究所 |
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日時 | 2021/2/15(月)15:00~17:30 |
会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー3Fホール (東京) |
テーマ・ プログラム |
持続可能な新しいモビリティの実現方策について |
講師 | 主催者挨拶:大橋 弘 東京大学公共政策大学院 院長 挨 拶:宿利 正史 一般財団法人運輸総合研究所 会長、 東京大学公共政策大学院 客員教授 基調講演1:『持続可能な地域公共交通の実現と日本版MaaSの推進』 久保田雅晴 国土交通省 公共交通・物流政策審議官 基調講演2:『地域公共交通の新たな挑戦と課題 ~運輸総合研究所調査から見えてきたもの~』 石田 東生 筑波大学 名誉教授、 一般財団法人日本みち研究所 理事長 プレゼンテーション1:『交通成熟国における新しいモビリティサービスの導入』 松本 順 みちのりホールディングス 代表取締役グループCEO、 株式会社経営共創基盤取締役共同経営者 プレゼンテーション2:『New normalに必要なmobility service』 村瀨 茂高 WILLER株式会社 代表取締役 パネルディスカッション:『持続可能な新しいモビリティの実現方策について』 モデレーター:石田 東生 筑波大学 名誉教授、一般財団法人日本みち研究所 理事長 パネリスト:河田 敦弥 国土交通省 総合政策局モビリティサービス推進課長 谷口 綾子 筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授 松本 順 みちのりホールディングス 代表取締役グループCEO、 株式会社経営共創基盤取締役共同経営者 村瀨 茂高 WILLER株式会社 代表取締役 閉会挨拶:長谷 知治 東京大学公共政策大学院 特任教授 |
開催概要
※詳細は下記、東京大学公共政策大学院HPをご参照ください。http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/events/2020-12-28-28109/
テクノロジーを駆使した新しいモビリティサービスは、各地域が抱える交通の課題解決に貢献するとともに、人々のライフスタイルやまちづくりを変革するポテンシャルをもっており、既に国内においてもさまざまな新しいモビリティサービスの検討や実証実験が進められています。また、2020年初からの新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより、人々の価値観やライフスタイルが変容し、移動行動も大きく変わりつつある中で、新しいモビリティサービスへの期待や求められる役割が一層高まっています。
東京大学公共政策大学院交通・観光政策研究ユニット(TTPU)では、新しいモビリティサービスのあり方を重要なテーマとして捉え、2020年2月に第1回TTPUセミナーを開催し「新しいモビリティサービスの実現に向けて~日本版MaaSを利用者目線で検証する~」と題して新しいモビリティサービスの役割や期待について議論しました。
また、当ユニットと連携協定を締結している一般財団法人運輸総合研究所では、同財団理事で一般財団法人みち研究所理事長の石田東生筑波大学名誉教授を座長に、「新しいモビリティサービスの実現方策検討委員会」を設置し、新しいモビリティサービスに関する研究を進めています。
今回、第2回TTPUセミナーにおいては、昨今の社会経済情勢の変化やモビリティをめぐる国内外の動向を踏まえ、新しいモビリティサービスを、実証実験段階を超えた実サービスとして持続可能な形で定着させる方策について、上記検討委員会とも連携し、この分野をリードする有識者、経営トップや政策担当者を迎えて議論しました。
プログラム
主催者挨拶 |
大橋 弘 主催者挨拶 |
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挨拶 |
宿利正史 挨拶 |
基調講演1 |
石田東生 『地域公共交通の新たな挑戦と課題 ~運輸総合研究所調査から見えてきたもの~』 |
基調講演2 |
久保田雅晴
|
プレゼンテーション1 |
松本 順
|
プレゼンテーション2 |
村瀨茂高 『New normalに必要なmobility service』 |
パネルディスカッション |
『持続可能な新しいモビリティの実現方策について』 |
閉会挨拶 |
長谷知治 閉会挨拶 |
当日の結果
ご講演・パネルディスカッションの概要は以下のとおりです。
1.基調講演1 石田東生 筑波大学名誉教授、一般財団法人日本みち研究所理事長
公共交通は利用者減の厳しい状況にあり、COVID19の影響も大きく受ける中、地域交通のゲームチェンジ、変革が必要である。十勝バスは、アナログな顔の見える営業活動と目的地づくり、生活MaaSの提案をする等、公共交通事業者として変化を遂げる勇気を与える「実例」である。運輸総合研究所の「持続可能な新しいモビリティサービスに関する調査研究」では、新しいモビリティサービスを加速化する「実例の発見と収集」に力点を置き、国土交通省の先行モデル事業6つを含むケーススタディを進め、課題の洗い出しをしている。今年度の調査は生のデータを集めることに注力してきたが、その中で洗い出されたヒントは、①新しいモビリティの導入には多様な主体の協力が重要、②地域でビジョンを描くことが重要、③モデル事業を通じてオープンデータ化が着実に進んでいる、④国内外の連携が進んでいる、⑤地域のためのデータ活用が進展している、⑥ユーザー志向でロックインを防ぐ、⑦自治体による方向付けや調整が重要、等である。地域公共交通の日本モデルの可能性と将来性を考えていくことが求められおり、今後、運輸総合研究所の調査では、収集した実例を基に提言を行っていく予定である。
2.基調講演2 久保田雅晴 国土交通省公共交通・物流政策審議官
地域公共交通は従来から人口減少で厳しい環境にあるが、COVID19の影響で、路線バスのみならず高速バス・貸し切りバスも大きく需要が減り、地域鉄道、内航旅客、航空も需要が大幅に減るなど、厳しい状況が加速化している。一方で、地域住民は公共交通が減ることで自動車が運転できないと生活できないことに不安を抱いている。また、自家用車保有と非保有の世帯の間で外出率に30%もの差があり、行政コスト増につながる可能性があると捉えている。
これらを背景に、地域の足を確保するための政策を展開している。2020年の地域公共交通活性化再生法改正法・独禁法特例法のポイントは、①地域が自らデザインする地域交通、②輸送資源の総動員による移動手段の確保、③効率的かつ利便性の高い地域公共交通の実現、の3点である。③において、MaaSの円滑な普及促進に向けた措置として、新しいモビリティサービス事業計画の認定制度を創設し運賃設定の手続をワンストップ化するとともに、MaaSのための協議会制度を創設し関係者の協議・連携を促進する仕組みを作った。コロナ禍により、混雑回避、キャッシュレス、パーソナルなモビリティの利用等のニーズが高まっており、これに対応するMaaSの必要性も高まっている。国土交通省は、COVID19で厳しい経営環境におかれた地域公共交通の事業継続のための支援措置や、MaaS等の革新を通じて事業を活性化するための支援策等を総動員して、地域公共交通を支援していく。
3.プレゼンテーション1 松本 順 みちのりホールディングス代表取締役グループCEO、株式会社経営共創基盤取締役共同経営者
日本は公共交通成熟国であり、新しいモビリティサービスをもってしても創造される需要は小さく、既存の事業と需要の食い合いにならないようにしなければならない。このため、既存の交通事業者がサービスを進化させ、新しいモビリティサービスを現状のネットワークの中に組み込んでいくことが望ましい。
その前提として、変化を許容し喜ぶ組織へのCX(コーポレート・トランスフォメーション)が必要。年功序列、オーナーによる搾取、営業の仕方など、従来の仕組みを改善することができる社風へと変化を遂げることが必要。CXにより営業キャッシュフローが増加し、それをDX(デジタル・トランスフォメーション)に投資し、更に生産性が向上する、という仕組みができる。
交通サービスのデジタル化は、技術を有する様々な企業との連携によって可能となる。例えば、ひたちMaaSでは、ダイナミックルーティングのシステム、オープンデータハブシステム、共通システム基盤構築、アプリ、チケット認証端末はそれぞれ技術を保有する企業が提供している。その他、みちのりHDが手がけているひたちBRT自動運転実証実験、常陸太田におけるラストワンマイル自動運転、エネルギーマネジメント、ダイナミックルーティング等の取組においても、様々な企業の新技術を活用している。
4.プレゼンテーション2 村瀨茂高 WILLER株式会社代表取締役
コロナ禍により、対面ではなくリモート中心のニューリアリティ、職住融合、都心にいる必要が無くなったことによる分散型社会へと変化している。時間と場所の概念の変化を踏まえ、移動だけでなく、生活を豊かにする価値を提供することがモビリティサービスに求められている。その際、自宅から1、2キロの近距離生活圏を意識し、最短距離で、行きたいところに行きたいときに、保有しないで定額料金で相乗りできる「共有交通」のようなモビリティサービスを考えている。AIオンデマンド交通で最適な配車・ルーティングをする実証を渋谷、京丹後等で実施しているが、これらの仕組みにより、地域の移動総量が増え、域内の経済活性化につながることを期待している。
5. パネルディスカッション
石田東生教授をモデレーターとして、新しいモビリティサービスに取り組むにあたってのポイントや、取り組もうとしている交通事業者向けのメッセージについて議論しました。主なやりとりは以下のとおりです。
<利用者目線のサービス構築>
・海外の交通事業者のサービスを研究した中で、ASEANではアナログだが使いやすいサービスが展開されていたことに着目した。使いやすいサービスとは何かということを意識することが必要。
・各交通モードの立場から離れて、高齢者、観光客等、利用者目線の輸送サービスの提供にモビリティサービス課として取り組んでいく。
・運転免許をもたない地方の高齢者、街中のテレワークを中心とするワーカー等、誰が何に困っているかを把握しターゲットをしっかりと捉えて取り組むことが必要。
・新しいサービスの構築に当たっては、利用者との信頼関係が重要。WILLERには毎日200ほどの顧客の声が寄せられるが、要望に対して応えてくれるという信頼関係が構築されており、新しいサービスを考えようとすると、様々な提案も寄せられる。サービスのスタートから成熟まで、時間軸を意識することが必要。
<デジタル活用>
・生産性の向上のためデジタル化・新技術の活用は不可欠である。特に、ペインポイント(顧客の困り事)をつぶしていく場面でデジタルは役に立つ。現金のやりとりがペインポイントであれば、キャッシュレス化が解決する。
・一方で、デジタルを使えない方の立場にたって考えていくことが必要。
<基本的な考え方>
・社会政策としての交通政策と、経営としての交通ビジネスの、それぞれの立場から議論しているが、より多くの人にモビリティサービスを使ってもらえるようになるにはという基本的な考え方は合致している。
・国としては、財政、規制緩和等も含めて新しいモビリティに取り組む事業者を支援していく。その際、政府全体としてデジタル化に取り組んでいるが、誰として取り残さないことも重要である。
本開催報告は主催者の責任でまとめています。
1.基調講演1 石田東生 筑波大学名誉教授、一般財団法人日本みち研究所理事長
公共交通は利用者減の厳しい状況にあり、COVID19の影響も大きく受ける中、地域交通のゲームチェンジ、変革が必要である。十勝バスは、アナログな顔の見える営業活動と目的地づくり、生活MaaSの提案をする等、公共交通事業者として変化を遂げる勇気を与える「実例」である。運輸総合研究所の「持続可能な新しいモビリティサービスに関する調査研究」では、新しいモビリティサービスを加速化する「実例の発見と収集」に力点を置き、国土交通省の先行モデル事業6つを含むケーススタディを進め、課題の洗い出しをしている。今年度の調査は生のデータを集めることに注力してきたが、その中で洗い出されたヒントは、①新しいモビリティの導入には多様な主体の協力が重要、②地域でビジョンを描くことが重要、③モデル事業を通じてオープンデータ化が着実に進んでいる、④国内外の連携が進んでいる、⑤地域のためのデータ活用が進展している、⑥ユーザー志向でロックインを防ぐ、⑦自治体による方向付けや調整が重要、等である。地域公共交通の日本モデルの可能性と将来性を考えていくことが求められおり、今後、運輸総合研究所の調査では、収集した実例を基に提言を行っていく予定である。
2.基調講演2 久保田雅晴 国土交通省公共交通・物流政策審議官
地域公共交通は従来から人口減少で厳しい環境にあるが、COVID19の影響で、路線バスのみならず高速バス・貸し切りバスも大きく需要が減り、地域鉄道、内航旅客、航空も需要が大幅に減るなど、厳しい状況が加速化している。一方で、地域住民は公共交通が減ることで自動車が運転できないと生活できないことに不安を抱いている。また、自家用車保有と非保有の世帯の間で外出率に30%もの差があり、行政コスト増につながる可能性があると捉えている。
これらを背景に、地域の足を確保するための政策を展開している。2020年の地域公共交通活性化再生法改正法・独禁法特例法のポイントは、①地域が自らデザインする地域交通、②輸送資源の総動員による移動手段の確保、③効率的かつ利便性の高い地域公共交通の実現、の3点である。③において、MaaSの円滑な普及促進に向けた措置として、新しいモビリティサービス事業計画の認定制度を創設し運賃設定の手続をワンストップ化するとともに、MaaSのための協議会制度を創設し関係者の協議・連携を促進する仕組みを作った。コロナ禍により、混雑回避、キャッシュレス、パーソナルなモビリティの利用等のニーズが高まっており、これに対応するMaaSの必要性も高まっている。国土交通省は、COVID19で厳しい経営環境におかれた地域公共交通の事業継続のための支援措置や、MaaS等の革新を通じて事業を活性化するための支援策等を総動員して、地域公共交通を支援していく。
3.プレゼンテーション1 松本 順 みちのりホールディングス代表取締役グループCEO、株式会社経営共創基盤取締役共同経営者
日本は公共交通成熟国であり、新しいモビリティサービスをもってしても創造される需要は小さく、既存の事業と需要の食い合いにならないようにしなければならない。このため、既存の交通事業者がサービスを進化させ、新しいモビリティサービスを現状のネットワークの中に組み込んでいくことが望ましい。
その前提として、変化を許容し喜ぶ組織へのCX(コーポレート・トランスフォメーション)が必要。年功序列、オーナーによる搾取、営業の仕方など、従来の仕組みを改善することができる社風へと変化を遂げることが必要。CXにより営業キャッシュフローが増加し、それをDX(デジタル・トランスフォメーション)に投資し、更に生産性が向上する、という仕組みができる。
交通サービスのデジタル化は、技術を有する様々な企業との連携によって可能となる。例えば、ひたちMaaSでは、ダイナミックルーティングのシステム、オープンデータハブシステム、共通システム基盤構築、アプリ、チケット認証端末はそれぞれ技術を保有する企業が提供している。その他、みちのりHDが手がけているひたちBRT自動運転実証実験、常陸太田におけるラストワンマイル自動運転、エネルギーマネジメント、ダイナミックルーティング等の取組においても、様々な企業の新技術を活用している。
4.プレゼンテーション2 村瀨茂高 WILLER株式会社代表取締役
コロナ禍により、対面ではなくリモート中心のニューリアリティ、職住融合、都心にいる必要が無くなったことによる分散型社会へと変化している。時間と場所の概念の変化を踏まえ、移動だけでなく、生活を豊かにする価値を提供することがモビリティサービスに求められている。その際、自宅から1、2キロの近距離生活圏を意識し、最短距離で、行きたいところに行きたいときに、保有しないで定額料金で相乗りできる「共有交通」のようなモビリティサービスを考えている。AIオンデマンド交通で最適な配車・ルーティングをする実証を渋谷、京丹後等で実施しているが、これらの仕組みにより、地域の移動総量が増え、域内の経済活性化につながることを期待している。
5. パネルディスカッション
石田東生教授をモデレーターとして、新しいモビリティサービスに取り組むにあたってのポイントや、取り組もうとしている交通事業者向けのメッセージについて議論しました。主なやりとりは以下のとおりです。
<利用者目線のサービス構築>
・海外の交通事業者のサービスを研究した中で、ASEANではアナログだが使いやすいサービスが展開されていたことに着目した。使いやすいサービスとは何かということを意識することが必要。
・各交通モードの立場から離れて、高齢者、観光客等、利用者目線の輸送サービスの提供にモビリティサービス課として取り組んでいく。
・運転免許をもたない地方の高齢者、街中のテレワークを中心とするワーカー等、誰が何に困っているかを把握しターゲットをしっかりと捉えて取り組むことが必要。
・新しいサービスの構築に当たっては、利用者との信頼関係が重要。WILLERには毎日200ほどの顧客の声が寄せられるが、要望に対して応えてくれるという信頼関係が構築されており、新しいサービスを考えようとすると、様々な提案も寄せられる。サービスのスタートから成熟まで、時間軸を意識することが必要。
<デジタル活用>
・生産性の向上のためデジタル化・新技術の活用は不可欠である。特に、ペインポイント(顧客の困り事)をつぶしていく場面でデジタルは役に立つ。現金のやりとりがペインポイントであれば、キャッシュレス化が解決する。
・一方で、デジタルを使えない方の立場にたって考えていくことが必要。
<基本的な考え方>
・社会政策としての交通政策と、経営としての交通ビジネスの、それぞれの立場から議論しているが、より多くの人にモビリティサービスを使ってもらえるようになるにはという基本的な考え方は合致している。
・国としては、財政、規制緩和等も含めて新しいモビリティに取り組む事業者を支援していく。その際、政府全体としてデジタル化に取り組んでいるが、誰として取り残さないことも重要である。
本開催報告は主催者の責任でまとめています。