物流とDX ~デジタル技術で労働力不足を乗り越えられるか~
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第74回運輸政策セミナー(オンライン開催)
日時 | 2021/7/16(金)15:00~17:30 |
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開催回 | 第74回 |
テーマ・ プログラム |
物流とDX ~デジタル技術で労働力不足を乗り越えられるか~ |
講師 | 1.基調講演 講師:西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター 教授 2.講 演 (1)ラストワンマイルの配車最適化の現在地 松下 健 株式会社オプティマインド 代表取締役社長 (2)CBcloudが取り組む物流のデジタライゼーション 松本 隆一 CBcloud株式会社 代表取締役CEO (3)アスクルeコマースが取り組む全体最適を実現する物流DX 宮澤 典友 アスクル株式会社 執行役員 CDXOテクノロジスティクス本部長 3.パネルディスカッション及び質疑 コーディネーター:山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所所長 パネリスト:講演者 |
開催概要
労働力不足は各産業共通の課題。とりわけ物流分野は、トラックドライバーを中心に、その厳しい労働環境から問題が深刻化している。このため、様々な対策が官民で講じられているが、その中でも、AIやIoTなど飛躍的に進歩しているデジタル技術を活用し、既存のオペレーションの改善や働き方改革など、物流のこれまでの在り方を変革する物流DXへの期待が高まっている。本セミナーでは、EC市場の急成長等を背景に労働需給の更なるひっ迫が懸念されているラストワンマイル物流に焦点をあて、先駆的な取組から見えるデジタル技術活用の可能性と課題を通じて、デジタル化の進め方に対する理解を深めるとともに、物流DXの今後の方向性について考察した。
今回のセミナーは物流事業者、メーカー、大学等研究機関、行政機関、交通事業者、コンサルタントなど会場・オンラインあわせて526名の参加者があり、盛会なセミナーとなった。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 開会挨拶 |
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基調講演 |
西成 活裕 「物流DXと全体最適」 |
講演1 |
松下 健 「ラストワンマイルの配車最適化の現在地」 |
講演2 |
松本 隆一 「CBcloudが取り組む物流のデジタライゼーション」 |
講演3 |
宮澤 典友 「アスクルeコマースが取り組む全体最適を実現する物流DX」 |
パネルディスカッション・質疑応答 |
<コーディネーター>
山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所所長 <パネリスト> 西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター 教授 松下 健 株式会社オプティマインド 代表取締役社長 松本 隆一 CBcloud株式会社 代表取締役CEO 宮澤 典友 アスクル株式会社 執行役員CDXOテクノロジスティクス本部長 |
閉会挨拶 |
小瀬 達之 開会挨拶 |
当日の結果
ご講演・パネルディスカッションの概要は以下の通りです。
1.基調講演 西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター 教授
物流分野における多くの課題の解決に向け、近年、共同配送等の企業間連携による効率化の取組みが進められている。このような取組みは、情報がデジタル化され、企業間で共有されることが前提となる。
今後の物流にとって最も重要なキーワードの1つがDXである。なお、DXとは、単にデジタル化のみを指すのではなく、デジタル化を通じてあり方を変革することまでを指す。つまり、DXは手段であり、目的ではない。
DXを活用した物流の全体最適においては、企業の競争領域と協調領域の線引きを明確化し、適当な戦略によってプラットフォームを構築することが重要である。また、全体最適を目指すにあたり、手段と目的を混同することなく、短期、長期、営業、現場それぞれの目線での目標を一致させるためのツールとして、ロジックツリーを提案している。
また、全体とは、物流だけでなく製造や販売も含むものであり、また、最適のためには、作って運んだものを廃棄することがないよう、2030年の物流の姿として、「サプライチェーン」から「デマンドウェブ」への移行を提唱している。
物流分野のDXに関する課題の1つとして、少数のリソースを多数で取り合う「コンフリクト」の発生が挙げられる。当該課題の解決のためには理系知識が必要である。一方、プライバシーの確保、法規制、ビジネスモデルの構築等の課題も挙げられるが、これらには文系知識が必要である。昨年より、東京大学において、物流の全体最適化に係る高度人材の育成を目的とし、寄附講座を開設した。
以上のとおり、企業同士がデータをシェアして協調すること等により、物流DXを推進し、廃棄ゼロの時代を目指すべきであると考えている。
2.講演1 松下 健 株式会社オプティマインド 代表取締役社長
ラストワンマイルに特化した配車システムを提供している。配車業務においては、経営目線での高い利益率と、現場目線での高い精度が求められるところ、関係者との合意形成に注力できるよう、技術によりこれらの両立を支援することが当該配車システムの哲学である。
当該配車システムにおいては、必要最小限の情報を入力することにより、高精度で最適化された配車計画を作成することが可能である。また、ルート案内や動態管理も行うことができる。クラウドベースでデータを提供しており、高い更新頻度、短い計算時間等が特徴である。また、日々の配車計画に対して実際に配送した際の情報を基に検証を繰り返すことで改善を図っている。
当該システムにより、「コスト削減・妥当性の確認」、「業務の標準化」、「持続可能性の追求」等の観点で現場の方々を支援していきたい。
3.講演2 松本 隆一 CBcloud株式会社 代表取締役CEO
物流業界が抱える公平性、働き方、デジタル化等に関する課題解決のため、配送マッチングプラットフォーム及び宅配・運送業務支援ソリューションを提供している。
公平性の面においては、荷主とドライバーを直接つなぐことによる適正運賃の実現やドライバーの品質の評価及び同評価の表示による配送クオリティの向上の仕組みを確立している。
働き方の面においては、自身の裁量による能動的な受注及び安定したキャッシュフローの実現を可能としている。
デジタル化の面においては、スマートフォンのみで全ての宅配業務を可能とするプロダクトや、PC上で運行管理や煩雑な請求書業務まで遂行できるプロダクト等による生産性向上のほか、車の最適配置や、可処分時間の収益化及びAPIの公開を通じた標準化を目的としたデータ活用を推進している。
上記3つの要素の解決を通じて、物流業界を魅力あるものとしていきたい。
4.講演3 宮澤 典友 アスクル株式会社 執行役員 CDXOテクノロジスティクス本部長
Eコマースの構造問題の解決に向け、荷主と物流事業者の双方を担う立場から、「全体最適、オープン化と共創」をはじめとする6つの要素を掲げ、DXを推進している。
具体的には、ラストワンマイルを意識した商品開発、BtoBにおける置き配指定の開始、納品輸送を意識した発注、トラック待機時間の短縮のための入荷バース予約システムの導入や検品の効率化、AIシミュレーションによる商品のセンター配置の最適化、倉庫内の輸送におけるAIロボットの活用等の取組みを実施している。また、全体最適を追求するための仕組みとして、アスクル・シミュレータを構築した。
更に、あらゆるデータを収集・分析し、様々なステークホルダーとも連携することが重要であると考えており、AI人材の育成、温もりのある定性的なデータのフィードバック等も通じて、オープンなプラットフォームを目指していきたい。
5.パネルディスカッション
運輸総合研究所山内所長をコーディネーターとして、物流における新技術の活用や課題、人材に関してパネルディスカッションを行った。主なやり取りは以下のとおり。
<新技術を用いた物流業界のポテンシャル向上、現状の課題>
・配車最適化による物流コストの削減は数字として表れており、デジタル技術活用の効果はある。
・現在のオペレーションはドライバーやトラックが与えられた中での最適化。より上位の受注段階においてドライバーやトラックを含めた最適化が可能となれば一層のコスト削減の可能性がある。
・労働力不足に関する視点では、デジタル技術の活用で、現場での生産性を数値化することができている。今後は魅力ある業界とするためのデジタル技術の活用が求められる。
・ドライバー不足に対する貢献として、AIを用いたデータ解析により、輸送量を削減が可能になった点が挙げられる。
・物流センター内での実行型ロボットの活用を進めることで、物流業界で働くことへのハードルを下げる効果を期待している。
・紙面でのやり取りをデジタル化することによる効果は必ずある。そのときの費用を受益者が負担する仕組みづくりが必要である。
・利用者が急いで配送を希望しないものについて、考え方を改めるべき。アスクルでは当日配送は希望する方が注文時にチェックする仕組みに変更した。リードタイムを少し長く設定できれば、配送における最適化の余地が生まれる。
・デジタル化の流れを荷主が意志を持って社会構造を変えていくムーブメントを起こすきっかけとしたい。
・サプライチェーンによって発言力の強いプレイヤーは異なる。どこかに力の偏りがあると全体最適の実現の障壁となる。
<人材の育成・確保>
・現場で働く人々とビジョンや思想を共鳴し高めあうことが必要である。物流業界のITへの受容性とともにIT企業の歩み寄りがあって成立する。さらに互いに議論を深めることで建設的な関係が構築できる。
・アスクルでは事業部門のなかにデータ部門やエンジニア部門を統合したことでスピード感が増した。さらに事業部門間での情報共有を進めることで、社内の最適化と個別案件のスピード感の両立を図っている。
・互いを理解のためにはとにかく対話が必要。仕事においても丸投げではなくて、一緒に活動する、思いを共有することが必要である。
・業界横断的に議論の場を増やしたり人材交流が盛んに行われたりすることを期待する。
・物流業界で働く方々は、下請け・黒子の印象が根強い。表舞台にドライバーを出して顧客との接点を作っていく取組が重要。
次に視聴者の方々からの質問について議論した。主なやり取りは以下のとおり。
・プラットフォーマーが公平性を保つためには、中立的な団体や事業主体が運営していくことが必要。
・伝票のデジタル化には標準化とデータ化の2つのステップがある。標準化に向けた作業に難しさがある。
・ESG投資のように、環境に配慮した企業でないと資金が調達できなくなるのは物流業界でも同じと考える。サスティナブルな企業が将来的に残っていくことが望ましい。
・DXを進めるにあたり、地域の行政や実力者を巻き込んでいくことが必要である。
・企業間の共創により個々の物流のノウハウの流出が懸念されるが、そもそもその分野が競争領域なのか判断する必要がある。
・企業価値はデータに存在しているのか再考が必要。データには測れないノウハウや人との交流がその企業にとっての本当のノウハウがある。
・個人事業主よりも一般貨物運送事業者のほうがデジタル化の流れは遅いが、必要性を伝えることができれば変化していく。
・共同配送は、互いの企業が危機感を共有ができれば、様々な業種で広まる。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。
1.基調講演 西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター 教授
物流分野における多くの課題の解決に向け、近年、共同配送等の企業間連携による効率化の取組みが進められている。このような取組みは、情報がデジタル化され、企業間で共有されることが前提となる。
今後の物流にとって最も重要なキーワードの1つがDXである。なお、DXとは、単にデジタル化のみを指すのではなく、デジタル化を通じてあり方を変革することまでを指す。つまり、DXは手段であり、目的ではない。
DXを活用した物流の全体最適においては、企業の競争領域と協調領域の線引きを明確化し、適当な戦略によってプラットフォームを構築することが重要である。また、全体最適を目指すにあたり、手段と目的を混同することなく、短期、長期、営業、現場それぞれの目線での目標を一致させるためのツールとして、ロジックツリーを提案している。
また、全体とは、物流だけでなく製造や販売も含むものであり、また、最適のためには、作って運んだものを廃棄することがないよう、2030年の物流の姿として、「サプライチェーン」から「デマンドウェブ」への移行を提唱している。
物流分野のDXに関する課題の1つとして、少数のリソースを多数で取り合う「コンフリクト」の発生が挙げられる。当該課題の解決のためには理系知識が必要である。一方、プライバシーの確保、法規制、ビジネスモデルの構築等の課題も挙げられるが、これらには文系知識が必要である。昨年より、東京大学において、物流の全体最適化に係る高度人材の育成を目的とし、寄附講座を開設した。
以上のとおり、企業同士がデータをシェアして協調すること等により、物流DXを推進し、廃棄ゼロの時代を目指すべきであると考えている。
2.講演1 松下 健 株式会社オプティマインド 代表取締役社長
ラストワンマイルに特化した配車システムを提供している。配車業務においては、経営目線での高い利益率と、現場目線での高い精度が求められるところ、関係者との合意形成に注力できるよう、技術によりこれらの両立を支援することが当該配車システムの哲学である。
当該配車システムにおいては、必要最小限の情報を入力することにより、高精度で最適化された配車計画を作成することが可能である。また、ルート案内や動態管理も行うことができる。クラウドベースでデータを提供しており、高い更新頻度、短い計算時間等が特徴である。また、日々の配車計画に対して実際に配送した際の情報を基に検証を繰り返すことで改善を図っている。
当該システムにより、「コスト削減・妥当性の確認」、「業務の標準化」、「持続可能性の追求」等の観点で現場の方々を支援していきたい。
3.講演2 松本 隆一 CBcloud株式会社 代表取締役CEO
物流業界が抱える公平性、働き方、デジタル化等に関する課題解決のため、配送マッチングプラットフォーム及び宅配・運送業務支援ソリューションを提供している。
公平性の面においては、荷主とドライバーを直接つなぐことによる適正運賃の実現やドライバーの品質の評価及び同評価の表示による配送クオリティの向上の仕組みを確立している。
働き方の面においては、自身の裁量による能動的な受注及び安定したキャッシュフローの実現を可能としている。
デジタル化の面においては、スマートフォンのみで全ての宅配業務を可能とするプロダクトや、PC上で運行管理や煩雑な請求書業務まで遂行できるプロダクト等による生産性向上のほか、車の最適配置や、可処分時間の収益化及びAPIの公開を通じた標準化を目的としたデータ活用を推進している。
上記3つの要素の解決を通じて、物流業界を魅力あるものとしていきたい。
4.講演3 宮澤 典友 アスクル株式会社 執行役員 CDXOテクノロジスティクス本部長
Eコマースの構造問題の解決に向け、荷主と物流事業者の双方を担う立場から、「全体最適、オープン化と共創」をはじめとする6つの要素を掲げ、DXを推進している。
具体的には、ラストワンマイルを意識した商品開発、BtoBにおける置き配指定の開始、納品輸送を意識した発注、トラック待機時間の短縮のための入荷バース予約システムの導入や検品の効率化、AIシミュレーションによる商品のセンター配置の最適化、倉庫内の輸送におけるAIロボットの活用等の取組みを実施している。また、全体最適を追求するための仕組みとして、アスクル・シミュレータを構築した。
更に、あらゆるデータを収集・分析し、様々なステークホルダーとも連携することが重要であると考えており、AI人材の育成、温もりのある定性的なデータのフィードバック等も通じて、オープンなプラットフォームを目指していきたい。
5.パネルディスカッション
運輸総合研究所山内所長をコーディネーターとして、物流における新技術の活用や課題、人材に関してパネルディスカッションを行った。主なやり取りは以下のとおり。
<新技術を用いた物流業界のポテンシャル向上、現状の課題>
・配車最適化による物流コストの削減は数字として表れており、デジタル技術活用の効果はある。
・現在のオペレーションはドライバーやトラックが与えられた中での最適化。より上位の受注段階においてドライバーやトラックを含めた最適化が可能となれば一層のコスト削減の可能性がある。
・労働力不足に関する視点では、デジタル技術の活用で、現場での生産性を数値化することができている。今後は魅力ある業界とするためのデジタル技術の活用が求められる。
・ドライバー不足に対する貢献として、AIを用いたデータ解析により、輸送量を削減が可能になった点が挙げられる。
・物流センター内での実行型ロボットの活用を進めることで、物流業界で働くことへのハードルを下げる効果を期待している。
・紙面でのやり取りをデジタル化することによる効果は必ずある。そのときの費用を受益者が負担する仕組みづくりが必要である。
・利用者が急いで配送を希望しないものについて、考え方を改めるべき。アスクルでは当日配送は希望する方が注文時にチェックする仕組みに変更した。リードタイムを少し長く設定できれば、配送における最適化の余地が生まれる。
・デジタル化の流れを荷主が意志を持って社会構造を変えていくムーブメントを起こすきっかけとしたい。
・サプライチェーンによって発言力の強いプレイヤーは異なる。どこかに力の偏りがあると全体最適の実現の障壁となる。
<人材の育成・確保>
・現場で働く人々とビジョンや思想を共鳴し高めあうことが必要である。物流業界のITへの受容性とともにIT企業の歩み寄りがあって成立する。さらに互いに議論を深めることで建設的な関係が構築できる。
・アスクルでは事業部門のなかにデータ部門やエンジニア部門を統合したことでスピード感が増した。さらに事業部門間での情報共有を進めることで、社内の最適化と個別案件のスピード感の両立を図っている。
・互いを理解のためにはとにかく対話が必要。仕事においても丸投げではなくて、一緒に活動する、思いを共有することが必要である。
・業界横断的に議論の場を増やしたり人材交流が盛んに行われたりすることを期待する。
・物流業界で働く方々は、下請け・黒子の印象が根強い。表舞台にドライバーを出して顧客との接点を作っていく取組が重要。
次に視聴者の方々からの質問について議論した。主なやり取りは以下のとおり。
・プラットフォーマーが公平性を保つためには、中立的な団体や事業主体が運営していくことが必要。
・伝票のデジタル化には標準化とデータ化の2つのステップがある。標準化に向けた作業に難しさがある。
・ESG投資のように、環境に配慮した企業でないと資金が調達できなくなるのは物流業界でも同じと考える。サスティナブルな企業が将来的に残っていくことが望ましい。
・DXを進めるにあたり、地域の行政や実力者を巻き込んでいくことが必要である。
・企業間の共創により個々の物流のノウハウの流出が懸念されるが、そもそもその分野が競争領域なのか判断する必要がある。
・企業価値はデータに存在しているのか再考が必要。データには測れないノウハウや人との交流がその企業にとっての本当のノウハウがある。
・個人事業主よりも一般貨物運送事業者のほうがデジタル化の流れは遅いが、必要性を伝えることができれば変化していく。
・共同配送は、互いの企業が危機感を共有ができれば、様々な業種で広まる。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。