アメリカ航空産業の現状と今後の展望 / COVID-19と日米欧の航空業界

  • 運輸政策コロキウム
  • 航空・空港

第141回運輸政策コロキウム~ワシントンレポートⅨ~
(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/3/4(木)10:00~12:00
開催回 第141回
テーマ アメリカ航空産業の現状と今後の展望 / COVID-19と日米欧の航空業界
講師 講 師:中川 哲宏 ワシントン国際問題研究所次長
    高木 大介 ワシントン国際問題研究所研究員
コメンテータ:福井 秀樹 愛媛大学法文学部教授
<質疑応答>
モデレータ:山内 弘隆 運輸総合研究所所長

開催概要

世界の新型コロナウィルス感染者数が11千万人を超え、感染の収束が未だ見通せない中、コロナ禍によって最も甚大な影響を受けている航空産業がこの未曾有の危機をどう克服していくのかが世界的な課題となっている。
本報告では、第1部として、ワシントン国際問題研究所の中川次長より、アメリカの航空産業の現状について、コロナ・パンデミック前後の状況分析が紹介されるとともに、今後の展望につながる重要な視点が解説された。また、第2部として、高木研究員より、日米欧の具体的事例に即して、コロナ・パンデミックによる影響や政府、業界団体等による各種対応を紹介するとともに、「ニュー・ノーマル」における航空産業のあり方について紹介された。その後、航空分野の政策分析・政策評価の専門家である愛媛大学の福井教授をコメンテータに迎え、航空産業の今後について議論が行われた。

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プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶
講   師
中川 哲宏 <br> ワシントン国際問題研究所次長

中川 哲宏 
 ワシントン国際問題研究所次長

講演者略歴
講演資料

講   師
高木 大介 <br> ワシントン国際問題研究所研究員

高木 大介 
 ワシントン国際問題研究所研究員

講演者略歴
講演資料

コメンテータ
福井 秀樹 <br> 愛媛大学法文学部教授

福井 秀樹 
 愛媛大学法文学部教授

講演者略歴
講演資料

モデレータ
山内 弘隆<br> 運輸総合研究所 所長

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

閉会挨拶

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

当日の結果

ワシントン国際問題研究所の中川次長及び高木研究員から「アメリカ航空産業の現状と今後の展望/COVID-19と日米欧の航空業界」というタイトルで発表がありました。発表のポイントは次のとおりです。

1
・コロナ・パンデミック前までの米国航空産業の状況について、国内市場においては、超格安航空会社の登場などでシェアを拡大するLCCとの熾烈な競争を通じ、ネットワークキャリアは、運賃多様化策をはじめとするビジネスモデルの変革を迫られながらも、依然として高い収益性を確保する強固な事業基盤を築いてきた。また、国際市場においては、太平洋市場や大西洋市場において、中東勢、欧州LCC勢等との熾烈な競争に伴い運賃水準の低下が大きな課題となっていた。
・アメリカにおけるコロナ・パンデミックとその対応については、2020年3月に成立したCARES法により給与等補助と損失補填融資が措置され、同年12月に給与等補助の措置が2021年3月末まで延長された。事業継続と雇用確保を目的とし、人件費と必要な資金を手当てするというシンプルかつ強力な支援策が措置された。他方、支援がなければ路線と雇用を縮小するだけという、事業者のフレキシブルな態度も印象的であった。
・コロナ発生後の状況については、感染拡大が本格化した2020年第2四半期に最も需要の落ち込みが大きく、第3四半期は国内の観光・帰省需要が一定の回復を見た。LCCはネットワークキャリアに比べて供給量を絞り込んでいない点が特徴的。国際市場は壊滅的な状況となったが、再開に向けて各社は事前検疫方式の導入に取り組んでいる。
・今後の展望を描くに当たっての視点として、①国内市場の力強い回復、②ネットワークキャリアによるビジネス需要減への対応、③国際市場の供給量抑制と米国キャリアの優位性、④国際市場再開に向けた動き(事前検疫方式の確立、ワクチンパスポートの導入)が挙げられる。

2
・世界の旅客輸送は2019年まで右肩上がりで成長を続けてきたが、コロナ・パンデミックにより2020年の輸送旅客数は急激に減少し、対前年比で60%減、2019年は45億人を輸送したが2020年は18億人に留まった。
・国内需要喚起策が奏功した日本や世界最大の国内市場を抱える米国に比べ、域内路線の多くが国をまたぐ移動となる欧州は特に厳しい状況。空港経営についても同様。欧州では政府の管理・監視下に入った航空会社もあり、今後、国の意向に沿った経営が求められる。
・日米欧の各国・各地域で政府による財政支援が行われ、航空業界の回復・復興に向けた計画が立てられている。その中で、フランス政府がエールフランス航空に対して国家援助の条件として環境対策の実施を求めた事例にも見られるように、これを機会に航空分野におけるより一層の環境対策の強化が図られることも想定される。この動向は日米にも波及し、今後は「環境に配慮した持続可能な回復」というテーマがより重視されることも考えられる。
・航空会社に対しては大規模な財政支援が実施されている一方、空港は発着便の減少による収益の悪化に加え、着陸料等の減免などの支援措置も行っており、その結果空港整備計画に延期などの支障が出ている。加えて今後は安全維持や公衆衛生措置の強化に更なるコストがかかることが予想されることから、経営継続や安全な運用のため更なる援助が必要。
・国際機関や業界団体は航空業界の回復とその後の成長加速のため、リカバリープランの策定や公衆衛生の側面を強化した新たな仕組みづくりを進めている。しかしながら新たな出入国管理や検疫のあり方に関しては、各国や各社・各機関が独自の対応を進めているのが現状。今後は関係者間の連携や国際協調の下、航空利用者の利益が最大化されるよう、基準化・標準化の実現や別個となっているシステムが互換性をもって相互に利用可能となるための取り組みを期待する。

その後、コメンテータの愛媛大学法文学部の福井秀樹教授からは、中川次長、高木研究員の発表に対し、
 未曾有の事態にある航空業界の現状をわかりやすく概観したものである
 -現状を把握・整理するだけでも非常に困難な中、大変貴重な基礎資料である
とのコメントとともに、両研究員の発表におけるポイント、貨物輸送の動向や今後のビジネス需要に関する補足的説明がありました。また、コメントに併せて、福井教授からは以下の質問がありました。
・質問
【第1部に関する質問】
米国のコロナ対策に関する4月以降の見通しについて。
②LCCが「無理をしてでも飛ばす」のは、例えば、貨物収入で補っているからか。あるいはネットワークキャリアから顧客を奪う好機ととらえているためか。
ビジネス需要減のインパクトを業界関係者が「楽観的」に見ている理由は何か。
ワクチンパスポートをめぐる議論の状況は。国内便搭乗前のPCRテストに関する議論状況は。
【第2部に関する質問】
欧州の航空会社勢の需要下落が顕著とのことだが、EU域内であっても国境をまたぐ移動が制限されたためか?
航空会社への国家援助に関して、フラッグキャリア以外への援助の状況は?
国際線依存度が高い空港は経営がより厳しいとのことだが、どのような打開策があり得るか?
空港へのさらなる支援としてどのような対策があり得るか?
【全体を通じた質問】
○参入・競争促進の取組みは米国・日本で見られるか。

この質問に対し、中川次長と高木研究員は以下のとおり回答しました。
【第1部に関する質問への回答】
現在、追加的なコロナ対策法について連邦議会で議論されているところであり、与党民主党は3/14の成立を目指している。
ネットワークキャリアの動向にかかわらず、そもそもLCCのビジネスモデルにおいて弱気の戦略はあり得ないということ。貨物事業は大手を除きLCCでは実施していない。
パンデミック前のネットワークキャリア国内事業のロードファクターは85%超で飽和状態。減った需要を埋めるだけの需要は豊富にあり、販売戦略ないしイールドマネジメントによって十分に対応可能と認識されている様子。
米国では各社の取組みが先行している状況で、今後も民間主導で進められていくものと思われる。CDCによる搭乗前検査を義務付ける考えについては、業界の強い反対により、鳴りを潜めている様子。
【第2部に関する質問への回答】
国境をまたぐ移動が制限されたのに加え、欧州各国内においても他地域に比べより厳格な都市封鎖や移動制限が行われたため、需要がより一層減少することとなった。
ノルウェーのLCCで現在経営再建中のノルウェージャン・エアシャトルが再建計画が立ち次第、ノルウェー政府から融資を受ける予定とのことである。
世界的にワクチンの導入状況に遅れが見られ、国際線回復の目途も立たず引き続き厳しい状況ではあるが、より一層のコスト縮減や自国政府に対する追加支援の呼びかけを継続的に行っていくのに加え、国際線需要が回復し始めた際に遅滞なく安全かつ効率的な空港運営が行えるよう備えておくことが考えられる。
空港自身が行う着陸料等の減免や支払い猶予による逸失利益を補完するための資金援助や、施設の維持やリテール事業の運営継続のための費用を援助するという対策が考えられる。
【全体を通じた質問への回答】
○米国でも日本でも参入・競争促進に向けた取組みは見られない。欧州の例は「特定の企業に特別な支援をした」ことにより競争環境が歪められるおそれがあることから、その予防・是正のための措置という面があると認識。米国でも日本でも特定の企業に特別の支援は講じていないので、そのような措置が講じられていないものと理解している。

最後に視聴者からも質問を受け付け、各国各地域における国家援助の相対的な評価、今後の旅行需要の回復の傾向、コロナ検査証明やワクチン接種証明のデジタル化・標準化の動向とそれに対する日本のコミットメントの在り方について議論がなされました。

今回のコロキウムは大学等研究機関、国交省、航空事業者、コンサルタントなど約520名の参加者があり、盛会なセミナーとなりました。

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