新型コロナウイルスによる観光への影響と今後の展望
- 運輸政策セミナー
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第66運輸政策セミナー(オンライン開催)
日時 | 2020/11/20(金)15:00~17:00 |
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開催回 | 第66回 |
テーマ・ プログラム |
新型コロナウイルスによる観光への影響と今後の展望 |
講師 | 講師: 澤田 竜次 PwCコンサルティング合同会社/リアルエステート&ホスピタリティ パートナー 「Covid-19がホテル業界に与える影響について」 黒須 宏志 (株)JTB総合研究所 研究理事 「ツーリズム産業に対する新型コロナ感染症のインパクトと今後の展望」 <パネルディスカッション及び質疑応答> モデレータ: 山内 弘隆 運輸総合研究所 所長 |
開催概要
1.Covid-19がホテル業界に与える影響について
新型コロナ問題は、様々な業界の中でも特に観光・ホテル・料飲業界に大きな打撃を与えている。過去に例を見ない需要の喪失が相当期間続くことが見込まれる中、ホテル業界は損失を出し続けながらも生き残りをかけた戦いに取り組んでいる。そのような危機的な状況の中で、業界ではどのような変化が生じてくるのか?また、各社が取るべき戦略は何か?アフターコロナ期における業界のニューノーマルを見据えた上での解説を試みた。
2.ツーリズム産業に対する新型コロナ感染症のインパクトと今後の展望
ツーリズム産業全体にわたる新型コロナ感染症の影響について市場側と産業側の両側面から分析するとともにポストコロナ期に向けた展望について議論した。市場側については必ずしも悲観的な要素ばかりではない。一方、産業側の苦悩は深い。短期的なサバイバルという側面だけでなく積年の課題に対する対処の遅れに直面しているためである。ポストコロナ期に向けた訪日戦略の見直しも想定される中、ツーリズム産業が直面するチャレンジについて考えた。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 開会挨拶 |
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講 師 | |
講 師 | |
モデレータ |
山内 弘隆 |
閉会挨拶 |
佐藤 善信 閉会挨拶 |
当日の結果
澤田講師から、『Covid-19がホテル業界に与える影響について』というタイトルでご講演頂きました。ポイントは次のとおりです。
・ホテル業界におけるウィズコロナ時代の現状として、延べ宿泊者数及びホテルパフォーマンスはコロナ以前の水準の約半分まで回復した。都市別に分析すると、都心部のホテルは厳しい状況にあるが、リゾートホテル(箱根等)については稼働率が高いなど二極化が生じている。訪日外国人旅行者が減少している中で、日本人の海外旅行需要を国内旅行需要に取り込むことが重要である。
・ウィズコロナ期においては、特に日本では感染者数等の情報がメディアで取り上げられ、旅行を自粛することにより需要喚起が抑えられる傾向にあるため、平均で50~70%程度の水準で上下しながら推移することが見込まれる。2022年初頭から2024年初頭と見込んでいるアフターコロナ(新型コロナウイルスに対する有効なワクチン等が普及し、通常のインフルエンザと同等の扱いになった状態)期においては2019年水準まで回復することが想定される。
・アフターコロナ期においても、ウィズコロナ期における加速度的なワークスタイルの変化による影響が残る。過去を振り返ってみても、需要にはサイクルがあり、現在は耐える時期であるが、将来必ず需要は戻る。「おもてなし」は強い分野である一方、顧客のデータ管理(CRM)等IT・デジタル化は遅れている分野であり、これらは、将来を見据えて、この時期に検討すべき課題である。
・アフターコロナ期において想定される変化として、変動賃料化、不動産リスクを取らない運営受託方式、ファンド化・REIT化によるリスク分散、チェーン拡大等が挙げられる。
・ホテルは不動産であると同時にブランドである。誰でも知っている大規模チェーンブランド、又は小規模とするならば個性を持ち特定のターゲットに訴求するブランドを作ることが重要であり、新型コロナウイルスはこれらの動きを加速させるものであると考えているところ、この方向性を念頭において、事業計画を作っていく必要がある。
続いて、黒須講師から、『ツーリズム産業に対する新型コロナ感染症のインパクトと今後の展望』というタイトルでご講演頂きました。ポイントは次のとおりです。
・旅行の需要面について、1990年代半ばに経験された旅行離れとは異なり、旅行に行きたいというマインドは残っており、厳しい状況ではあるが望みはあるという状況である。Go To トラベル事業の効果もあり需要回復は進んでいる。
・一方、供給面について、程度の差はあるが、観光関連産業への影響は大きい。2020年上半期における旅行会社の取扱高は、例外なく6割から8割程度減少している。旅行会社に対する訪日需要喪失による影響は限定的であるが、これは国内旅行会社が訪日旅行に食い込めていないことも意味する。海外旅行の取扱高に対する寄与度の高い旅行会社はGo To トラベル事業の対象とはならないため、海外との交流再開に向けた働きかけが行われているところ。一方、地域経済に対する訪日需要喪失による影響は地域差が大きい。
・新型コロナウイルスは、旅行に対する需要面(雇用、所得等)・供給面(エアラインの再編等)に対して影響を与えることにより、中長期的に旅行そのものの需要にも影響を与えると考えられることから、感染拡大が収束したからといって安心できるものではない。
・雇用環境については、リーマンショックのときと比較すると就業者数の減少は小幅に抑えられているが、これは雇用を守っているからである。将来的に見ると、名目GDPに比べて名目雇用者報酬の伸び率が小さいことは、雇用が過剰に守られることを意味し、これは旅行需要に負の影響を与える。ビジネス需要については、リーマンショックによる影響が現在も残っていることからわかるように、一般的に考えられるよりも長期的に影響を受ける。訪日需要については、今後の成長への貢献が期待される発展途上国等の市場が影響を受けると予想される。
・インバウンドを含む今後の観光戦略は、高額購買層の獲得に向けた付加価値向上に焦点を当てることが重要である。訪日需要は訪日リピーターから回復する可能性が高く、感染が警戒される時期においては、観光の行き先は地方ではないかと予想されることから、地方空港の国際線復便の戦略が重要である。訪日需要と海外旅行は表裏一体であり、海外旅行需要の回復にあたっても、復便が重要である。
その後、山内所長がモデレータとなり、対談を行うとともに、視聴者からも質問を受け付け、主に以下のような議論がされました。
・現在、自然、アウトドア等に新たな価値が見出されたり付加価値がつけられたりといった動きが加速している。従来のホテルは、宿泊者だけの閉じた世界であったが、今後は、周りの景色や環境を含んだオープンなホテルの在り方が求められているのではないか。
・事業者の経営状態等に与えるGo Toトラベル事業の効果について、支援の効果は大きいが、旅行意欲については、感染状況等に関するメディアの影響も大きく、ここ1週間においては厳しい状況になる可能性がある。
・新型コロナウイルスの終焉時期について、NHKのドキュメンタリー番組によると、業界の感触とは異なり、早ければ2021年中に収束すると考える感染症の研究者もいるとのことであった。また、収束にあたっては、ワクチンの普及が条件となり、2022年にはかなり回復することが期待される。ウィズコロナ期においても、新型コロナウイルスに対する慣れ、死亡率や重症化率に関するデータが蓄積されていくことにより、適度なルールの下、適切な予防対策が取られることにより、現在想定する以上の需要の回復が期待できる。
・国内旅行需要の回復について、雇用面、所得面において悲観的な要素があることから、2019年水準には回復しないまま人口減少時代に突入するのではないかと考えている。一方、ワーケーションにより休暇が取得しやすくなることによるポジティブの面もある。従来、インバウンドで補完してきた土日、お盆休み等以外のローシーズンのためのインセンティブが重要である。
・訪日需要の回復について、比較的感染が落ち着いており、また、日本の一番のソースマーケットでもある中国、台湾等との交流が再開されれば大きく改善する可能性はあるが、交流再開にあたっては相互に同様の状況であることが重要であるため、当面は大きく変わらないが、将来的には回復してくると考える。また、当面は安全・安心をアピールし、ネガティブなイメージにならないよう情報提供に注力することが重要である。時間はかかるが、日本の強みは損なわれていないため、いずれは回復する。
・2021年のオリンピック・パラリンピックについて、ホテルパフォーマンスにおいてはポジティブな影響があると考えられるが、感染者数の増加により、後遺症も大きくなるおそれがあり、今後世論も変わるのではないかと注視している。一方、オリンピック等大きなイベントにおいては、航空券等が高価となることによりその時期の旅行を避ける等ネガティブな効果と、イベントの様子が放映されることにより、日本を訪れたことがない人に対しての日本のアピールにつながるという長期的なポジティブな効果もある。2021年のオリンピック・パラリンピックについては、前者のネガティブな要素はないと考えられるため、ツーリズム産業にとっては大きな遺産となると考えられる。
・国内旅行需要における個人(高齢者と非高齢者)とビジネスの比率について、ビジネス需要は全体の約3割程度であり、国内旅行においては、50代以上の需要が大きい。高齢者については、年金収入の他、資産を有している点はポジティブな要素である。また、60代以上の方においても、海外旅行やブランドに慣れている方も多く、かつての高齢者のイメージではない。
・観光産業の付加価値向上については、かつてより必要性は訴えられてきたが、これまでは十分ではなかった。例えば、日本食は訪日のリピートにつながっていない。一方で、アクティビティは魅力として挙げられるため、食とアクティビティを組み合わせることにより、付加価値を向上することができる。Local experienceは大きな価値であり、日本には優れたものが多いが、課金されていないとよく言われる。また、アクティビティの重要性は増してきているが、個人向けにカスタマイズされたプランを提供するホテルはまだまだ少なく、装置産業であるホテル業の転換には時間がかかり、また、経営者の思考の転換にも時間を要する。
・国際線は2024年に2019年の水準に回復するとの国際航空運送協会(IATA)のレポートを踏まえたホテル需要の回復におけるインバウンドの重要性について、IATAのレポートは全世界を対象としたものであるが、日本においてはアジア諸国からのインバウンドが約8割を占めている。2021年にワクチンが普及し交流が再開されるという前提において、期待も込めて2022年初頭に回復すると予測している。
・交通機関混雑の回避ニーズに基づいた座席数の少ない旅客機等の増加による旅行行動への影響について、アフターコロナ期においては、寡占化の進行による価格の高止まりはインバウンドに影響を与える。一方、ホテル業においては、元々日本では安すぎることが問題となっており、消費者にとってはネガティブな影響を与えるものの、適切な価格帯を形成するための、数ではなく質を追うマーケット作りが必要であると考える。
・日本発の海外旅行取扱いのウェイトが高い旅行会社群の先行きについて、厳しい状況であり、業態やコア事業のシフトにより生き残りを模索する状況が続くと考えられる。これまで海外旅行を専業としていた中小事業者が国内旅行の取扱いを開始するなど、一口には言えないが、会社経営力が試されるときである。
・大規模ホテルチェーンの日本への進出意欲については、これまでと変わらない。ホテル需要にはサイクルがあり、外資オペレータや投資家にとってはチャンスでもあるためである。
ライブ配信の開催であり、大学等研究機関、国土交通省、観光・交通事業者、コンサルタントなど、約390名の参加者があり、また、日本のみならず海外からの参加者もあり、盛会なセミナーとなりました。