米国都市部におけるMOD/MaaSをめぐる動向

  • 運輸政策コロキウム

第139回運輸政策コロキウム ~ワシントンレポートⅦ~
(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2020/12/17(木)10:00~12:00
開催回 第139回
テーマ・
プログラム
米国都市部におけるMOD/MaaSをめぐる動向
講師 講師:宮本 大輔 ワシントン国際問題研究所研究員

コメンテータ:加藤 浩徳 東京大学大学院工学系研究科教授、
          運輸総合研究所 研究アドバイザー

<質疑応答>
モデレータ:山内 弘隆 運輸総合研究所所長

開催概要

米国では、近年、モビリティ・オン・デマンド(Mobility On Demand: MOD)という人とモノの両方を対象として、その移動およびシステム管理のあり方を包括的に変えていこうとする考え方に基づき、モビリティ・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service: MaaS)をはじめ、さまざまな取り組みが全米の自治体で進められている。米国連邦運輸省(Department of Transportation: DOT)はMODを、「誰もが利用できる、安全で、価格も手頃で、信頼性の高い交通サービスの様々な選択肢を、統合・接続したマルチモードの交通ネットワーク」と定義しており、その対象範囲は大都市圏、大都市周辺の近郊都市、周辺都市、準郊外都市、地方のそれぞれの環境にあった発展が期待できると考えている。
本報告では、宮本研究員より米国におけるMOD /MaaSの取組みの現状について都市部(ワシントンD.C.、ニューヨーク、シカゴ)の事例を中心に紹介しつつ、交通計画・政策、国際プロジェクト学の専門家である東京大学大学院の加藤教授をコメンテータに迎えて議論を行うことを通じ、MOD/MaaSが抱える課題、ポスト・コロナにおける公共交通機関の役割等について議論した。


プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶
所長挨拶
山内 弘隆<br> 運輸総合研究所 所長

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

講   師
宮本 大輔 <br> ワシントン国際問題研究所研究員

宮本 大輔 
 ワシントン国際問題研究所研究員

講演者略歴
講演資料

コメンテータ
加藤 浩徳 <br> 東京大学大学院工学系研究科教授、<br> 運輸総合研究所 研究アドバイザー

加藤 浩徳 
 東京大学大学院工学系研究科教授、
 運輸総合研究所 研究アドバイザー

講演者略歴
講演資料

モデレータ

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

閉会挨拶
奥田 哲也<br> 運輸総合研究所 専務理事 <br> ワシントン国際問題研究所長 

奥田 哲也
 運輸総合研究所 専務理事 
 ワシントン国際問題研究所長 

閉会挨拶

当日の結果

ワシントン国際問題研究所の宮本研究員から「米国都市部におけるMOD/MaaSをめぐる動向」というタイトルで発表がありました。発表のポイントは次のとおりです。

・米国では、近年、モビリティ・オン・デマンド(Mobility On Demand: MOD)という、人とモノの両方を対象としてその移動およびシステム管理のあり方を包括的に変えていこうとする考え方に基づき、モビリティ・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service: MaaS)をはじめ、さまざまな取り組みが全米の自治体で進められている。
・自動車中心の交通システムを発展させてきた米国ではあるが、近年、特に都市部において、持続可能な交通への転換を図る過程で、MOD実現のために、公共交通機関の役割に期待する声が高まってきている。この背景には、都市部への急激な人口集中とデジタル技術の発展があり、それが公共交通機関への期待と新しいモビリティサービスへの期待に繋がっているものと思われる。
・米国連邦運輸省(Department of Transportation: DOT)はMODを、「誰もが利用できる、安全で、価格も手頃で、信頼性の高い交通サービスの様々な選択肢を、統合・接続したマルチモードの交通ネットワーク」と定義しており、都市、地方のそれぞれの環境にあった発展を期待している。
・また、DOT傘下の高度道路交通システム・ジョイント・プログラム・オフィスが公開したMobility on DemandOperational Concept Reportによると、DOTは、「MODMaaSも利用者ニーズを重視するという点は共通だが、MODは新たな交通システムのあり方を示したコンセプトであり、MaaSは交通システムのシームレスな提供を可能にするプラットフォームである。」としている。
・米国におけるMOD/MaaSの動向をとらえるため、特徴的な都市部、今回はニューヨーク、ワシントンDC、シカゴに焦点をあて、その現状と課題について分析した。いずれの都市もMOD/MaaSは開発の初期段階にあり、実証実験をしながら探っている状況であるが、成果の分析を行うデータサイエンティストの不足が大きな課題の一つであると思われる。
・他方で、交通政策関係者は、「MaaSシステムを構築するために必要な技術は、米国にもすでに存在しているため、技術が問題なのではなく、むしろ、MaaSの成功には、CO2 排出量の削減や大気汚染の改善といった、公共政策上の目標が必要である」と説いている。
・なお、新たなモビリティサービスの代表格であるTNCに対しては、TNCの普及が公共交通機関の利用客数の減少や交通渋滞の原因に繋がっているという分析が公共交通機関の側では定説となっており、それがTNCへの不信感へと繋がっているため、密な連携が取れているとは言い難く、目標を共有出来ていないように見受けられる。
・一方で、公共交通機関側の赤字路線の運用コスト削減、TNC側の駅利用客の取り込み、という実利的な観点からいくつか連携している例もあり、また、一部アプリでも連携が開始されているなど、徐々に両者の共存が始まってきている印象も受ける。
・このため、地域協議会の提言や市長のリーダーシップにより、今後はMOD/MaaSに係る取組が都市計画や交通計画に反映されていくものと思われる。
・まとめとして、2つの教訓が示されました。
 (1)「社会や地域の課題解決」といった共通目標に向かって地域ステークホルダーが連携できる体制づくりが重要
 (2)地域レベルのステークホルダー間の連携を促進し、利害関係の調整を図り、事業を前進させる地域リーダーが必要
・なお、新型コロナウイルスの状況について、CDC発表によると新規感染者数が連日20万人を超えていること、またAPTA発表によると地下鉄を含むHeavy Railモードの利用者数は前年度比で第二四半期は-87%、第三四半期は-72%の壊滅的な状況であることが示されました。

その後、コメンテータの東京大学大学院工学系研究科教授、運輸総合研究所研究アドバイザーの加藤浩徳氏から以下のコメントと質問がありました。
・コメント
 −米国MODは,かなり保守的に感じるが、輸送サービスの安全と安定を重視する公的機関の立場に立てば現実的な対応ともいえる。
 −米国MODでは、新モビリティサービスによる付加価値があまり期待されていないのは意外であったが、新技術に対する過大な期待と幻滅とが交錯している可能性がある。
 −公的機関とTNCとがビジョンを共有できていないのが遺憾だが、やはり新モビリティサービスの先進国である米国でさえも、提供事業者が非交通系のTNCである場合は、既存交通システムの関係者とのコミュニケーションは困難なようだ。
・質問
 ①米国のMODからみた、日本のMaaS政策への示唆は何か。
 ②米国のMODのような公的機関でなく、民間主導のMODもありうるとのことだが、どのような条件であれば民間主導型のMODが実現可能か。
 ③新たなモビリティサービスの登場によって、今後の交通政策の目標はどのように転換していく(べき)と考えるか。

この質問に対し、宮本研究員は以下のとおり回答しました。
 ①地域ごとの課題を抽出・認識すること、ステークホルダー連携体制を整備すること、データサイエンティストを公共交通機関が取り込むこと、この3点が日本への示唆と思われる。
 ②米国では、TNCなどへの不信感から公共交通機関と民間新モビリティ事業者の対話が少ないように見受けられるため、まずは両者が対話を行う場を設け、ビジョンを共有し、Win-Winの関係を構築することが前提条件として重要と思われる。
 ③上位目標に、いかに社会的課題、ユーザー視点を取り込むかという点が肝要ではないか。米国の政権交代が政策的な方向性全般に与える影響にも注目したい。

最後に視聴者からも質問を受け付け、地方部におけるMOD関連の動き、貧困層とMODとの関係、官民の連携で社会的課題を抽出し、ビジョンを共有することの重要性、データサイエンティスト等ICT人材の育成、雇用の重要性等、について議論がなされました。

今回のコロキウムは大学等研究機関、国交省、鉄道・航空事業者、コンサルタントなど350名の参加者があり、盛会なセミナーとなりました。


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