第23回 日中運輸経済技術交流会

  • 国際活動

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

主催 一般財団法人運輸総合研究所
中華人民共和国国家発展改革委員会総合運輸研究所(ICT)
日時 2017/2/23(木)
会場・開催形式 国家発展改革委員会総合運輸研究所 (中国(北京))
開催回 第23回

開催概要

 2月23日、北京の国家発展改革委員会総合運輸研究所において、第23回日中運輸経済技術交流会議を開催しました。当研究所からは、山内所長、越智招聘研究員、橋本客員研究員、五十嵐研究員、尾本国際業務室長が、国土交通省からは、川西国土交通政策研究所副所長、石丸国際政策課係員が出席しました。
 この会議は、1984年(昭和59年)以来、国家発展改革委員会総合運輸研究所と国土交通省・運輸総合研究所との間で、情報交換を目的として概ね毎年1回両国交互に開催している歴史のある会議です。
 中国側の国家発展改革委員会は、国家としての各種の計画の策定、各省庁が実施する大規模プロジェクトの審査許可を担当している中国の中核的な行政組織です。中国の基本的な国家戦略である第13次5カ年計画の起草を担当している組織であり、交通分野に関しては、先月に「第十三次5カ年近代総合交通運輸発展計画」を発表し、2020年までに安全性と利便性が高く、効率的で環境にやさしい近代総合交通運輸体系の形成を目指すこととしています。
 今般の会議では、以下に示す3つの議題について意見交換を行い、示唆に富む議論を実施しました。

  1. 議題1 両国における運輸・交通分野における計画の概要
    中国側は第13次5カ年計画の交通関連部分を、日本側は交通政策基本計画及び社会資本重点整備計画を紹介しました。
     中国は、これまでの第12次5カ年計画において、南北方向5本、東西方向5本の幹線交通網を整備してきました。この結果、高速鉄道については、約1.9万キロのネットワークが完成しています。第13次総合交通運輸発展計画では、南北、東西それぞれの方向に10本の幹線交通網を整備することを目指しています。その際には、内陸部の開発に重点を置くこととしています。そして高速鉄道網は、現在の1.9万キロから2020年までに3万キロに延伸されることが計画されています。我が国の新幹線網は合計で3千キロであり、中国高速鉄道のスケールの大きさと事業進捗のスピード感には驚かされます。
     高速道路も、第12次5カ年計画期間中に8万キロが供用されていますが、これを2020年までに15万キロに延伸することが計画されています。我が国の高速道路の総延長は8,430キロで国土の大きさを考えても、中国のインフラ整備のスピード感には驚愕します。
     中国は目覚しい発展を遂げていますが、長期的に見れば、社会構造的に、また経済構造の面で、日本の後を追っているといえます。日本は超高齢化社会に直面し、人口減少社会における社会資本整備のあり方が課題になっていますが、そうした知見は、将来的に人口が減少に向かうことになる中国にとっても参考になると考えられ、中国側からも同様の問題認識が示されました。
  2. 議題2 国内航空の現状
     中国側は中国航空輸送の現状と今後の課題について説明し、日本側はLCCの伸張を踏まえた日本国内の航空の特徴を説明しました。
     中国は、これまでの第12次5ヵ年計画期間中航空旅客数は毎年10.4%の成長を記録しました。第13次5カ年計画期間中も引き続き毎年約10%程度の割合で増加すると見込んでいます。そこで、北京及び成都に新空港を建設すること等により、需要の拡大に対応することとしています。また全国の空港数も210空港から260空港に増設し、人口20万人以上の都市をカバーすることも計画されています。
     国際化が進む中で、LCCの伸張等は不可避であると考えられ、航空会社間の競争環境をどのように形成するかも需要なテーマです。現在、北京では新空港の建設が進められていますが、二つの空港の役割をどのように住み分けるかという難しい問題を抱えています。また、混雑空港においてスロット配分などの競争条件を整えるかも大きな課題となっており、これらの課題についても、首都圏空港の事例が中国側の参考になると思われます。
  3. 議題3 都市圏構想
     中国側は、「北京都市圏の交通運輸一体化発展構想」について説明し、日本側は、「東京圏鉄道整備計画」について説明しました。
     北京、天津及び石家荘(河北省)の都市圏における都市間鉄道網のあり方について、検討が進められています。具体的には、郊外の住宅地と北京都心部を結ぶ鉄道をどのように整備するか、また、北京を中心とした放射状の交通網に加えて各拠点同士の連携をどのようにとるか、という視点で検討が進められているものです。北京周辺部を含めた「都市クラスター」において、鉄道を主体とした交通体系作りを目指しており、東京圏及び東京大阪間の鉄道の分担率の高さに関心を示していました。また、建設資金の調達方法、地方公共団体の負担のあり方等、中国にとっては新たな事業スキームを検討していて、我が国の常磐新線のスキーム等を参考情報として伝達しました。
 中国側は、鉄道新線の建設に当たっての資金調達のあり方に関心があるように見受けられました。特に、民間の資金をどのように鉄道建設に充当するかについて、興味を示していました。我が国は現在、企業部門における資金需要が弱く、民間からの資金調達は容易ですが、成長が続く中国においては、資金調達のあり方が課題の一つであると推測されました。

 中国は現在、鉄鋼、石炭等の分野で過剰生産能力の問題に直面し、経済は減速傾向にありますが、第13次5カ年計画では、年平均6.5%以上の成長率を達成することを意識しており、財政政策による下支えが不可欠な状況です。拡張的な財政政策が維持されるうちは、高速鉄道、高速道路等への投資は維持されるのでしょうが、2016年の財政赤字の対GDP比率は3.0%となり、今後の財政政策の舵取りは困難さを増していくものとも考えられます。
 高速鉄道の経営については、情報がさほど公開されておらず、課題がどこにあり、どの程度のインパクトがあるのかを窺い知ることは出来ません。中国鉄道総公司という国有企業が運営に当たっていますが、財務の見通しは明らかにされていません。今後とも政府が鉄道事業にどのように関与するかによりますが、いずれは我が国の国鉄改革の経験が活かされる時がくることも考えられます。
 日中両国には、数多くの巨大都市を有しているというアジア特有の特徴があります。自動車に過度に依存しない交通体系作り、環境問題への対応等類似した交通問題を抱えているともいえ、お互いの経験が参考になるケースも増えていくものと考えられました。

 会議の翌日は高速鉄道の始発駅である「北京南駅」を視察し、市内の地下鉄及びアクセス鉄道を乗り継いで空港に向かいました。北京南駅は、構造的に空港のターミナルビルのようで、ターミナルビルに入る前で、身分証を提示し、すべての手荷物をセキュリティチェックに通す必要があります。また、市内の地下鉄も車両内にカメラが設置されており、セキュリティに対する意識の高さが窺えました。
 2010年に旅客数で航空の半分以下であった高速鉄道が、50%近い年率で急成長し、2015年には航空の倍以上の旅客数にまで至っており、中国においても高速鉄道が航空を凌駕する状況が著しい点は、北京南駅の視察と相まって、非常に印象的でした。

                                                  (とりまとめ:尾本和彦)

プログラム

開会挨拶(09:00~09:20)

汪 鳴
総合運輸研究所長

川西 徹
国土交通政策研究所副所長

(議題1)
両国における運輸(09:20~10:00)

Mr. Yijiang FAN
総合運輸研究所 Division Deputy Chief

・交通分野における計画の概要
・第13次5ヵ年計画(2016年3月策定)
(議題1)
両国における運輸(10:00~10:40)

越智 秀信
運輸総合研究所招聘研究員
・交通政策基本計画、社会資本重点整備計画

(議題2)
国内航空の現状(11:30~12:10)

Mr. Kun LI
総合運輸研究所 Division Chief

・中国航空輸送の発展の現状と今後の動向
(議題2)
国内航空の現状(13:30~14:10)

橋本 安男
運輸総合研究所客員研究員

・日本国内の航空の現状
(議題3)
都市圏構想(14:40~15:20)

Mr. Shidong CHEN
総合運輸研究所 Division Chief

・京津冀城市群交通運輸一体化発展構想
(議題3)
都市圏構想(15:40~16:20)

五十嵐 達哉
運輸総合研究所研究員

・東京圏鉄道整備計画
総括(16:50~17:20)

山内 弘隆
運輸総合研究所長

汪 鳴
総合運輸研究所長